2026年1月:海外取引に関する日本の税務調査事績及び課税事例の考察
国税庁は2025年12月2日、「令和6事務年度 (2024年7月~2025年6月)法人税等の調査事績の概要」を発表しました。本稿ではその内、海外取引への課税に関する部分を紹介します。
1.海外取引に関する調査事績
(1)海外取引法人等に係る実地調査の状況
海外取引全般に係る実地調査件数は、前事務年度比2.4%減の10,195件、非違があった件数も2.5%減の2,375件と共に微減となりました。一方、申告漏れ所得金額については27%減の2,096億円と減少幅が大きかった為、1件当たり申告漏れ所得金額は前事務年度の1.2億円→0.9億円へと減少しました。
(2)外国子会社合算税制に係る実地調査の状況
外国子会社合算税制については、非違があった件数は115件と、前事務年度(106件)から微増であった一方、申告漏れ所得金額は前事務年度の207億円から2.5倍以上の527億円へと急増しました。
(3)移転価格税制に係る実地調査の状況
移転価格税制については、非違があった件数は前事務年度比14%減の107件、申告漏れ所得金額は前事務年度比22%減の399億円となりました。
(4)移転価格税制に係る事前確認の申出・処理状況
移転価格税制に係る事前確認(“APA”)の申出及び処理の状況については、申出件数は前事務年度の155件から13%増の175件となる一方、処理件数は前事務年度の139件から微減の136件となりました。申出件数と処理件数の差が拡がり、繰越件数は過去最高を更新する674件となりました。
2.海外取引課税の事例
今回の国税庁発表資料にも、海外取引に係る法人課税の事例がいくつか紹介されていましたが、その内の一つの事例を以下紹介します。
海外取引に係る源泉徴収漏れ
(概要)調査法人は、X国所在の外国法人から役務の提供(ソフトウェア開発)を受け、その対価を外国法人に支払う際、親会社(日本)に立替払いしてもらったものの、親会社が源泉徴収をしていなかった。しかし本ケースでは、X国と日本との租税条約において日本で課税できることとなっているため、源泉徴収漏れとして約4千万円が追徴課税された。
(解説)外国法人への支払の際、日本で源泉徴収が必要なのは配当、利子、使用料、不動産所得などの国内源泉所得であり、役務提供(サービス)については、外国法人が日本に有する支店等の恒久的施設を通じて行わない限り、租税条約上日本での課税はありません。しかしインドとの日印租税条約では、「技術上の役務」に対する料金等については、使用料と並んで“支払者側の居住地国内で生じたもの”とされ、そのような役務がどこで提供されたかを問わず、支払地国での課税を認めています。日印租税条約における「技術上の役務」の定義は経営コンサル役務を含む幅広いもので、ソフトウェア開発については当然含まれるということになります。
しかし、租税条約があることにより、ソフトウェア開発がインドで行われていれば国外源泉所得扱いにて非課税になる国内法より厳しい課税が行われてしまうのは、国際取引における二重課税を防止し納税者の過度な負担を軽減するという租税条約の主目的、及び租税条約によって国内法に基づく租税負担以上の課税が出来ないという「プリザベーション原則」に反しています。但し日本の所得税法162条では、租税条約において国内源泉所得につき国内法(同法161条)の規定と異なる定めがある場合には、国内源泉所得はその租税条約に定めるところによる、としています。つまり本事例では、本来国内法では国外源泉所得となるはずのものが、日印租税条約の定めによって国内源泉所得として置き換えられることになります。且つ、プリザベーション原則については国内法及び日印租税条約上も規定がありません(日米租税条約上は規定有)。特定の租税条約によって納税者が不利益を被るという経済不合理的な状況が生じている中、このような特異な事例を公知するよりも、プリザベーション原則を国内法若しくは日印租税条約上明記すべきではないでしょうか。元々この技術上の役務提供への支払国での課税はインド側の要請によるものであることは明らかですが、日本も対抗措置としてこのような課税を続けるというならば、少なくとも、日本人が不動産を購入できない国の居住者には日本の不動産を買わせないなど、他の対抗措置もしっかり行ってほしいものです。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2026年1月号掲載記事より転載)