2025年12月:OECDが2024年の相互協議統計を発表

経済協力開発機構(OECD)は、世界約140ヵ国における2024年相互協議(Mutual Agreement Procedure、“MAP”)統計を2025年10月31日に発表しました。

移転価格税制など国際課税により二重課税が生じた場合、租税条約締結国間であれば、納税者の申請により両国政府当局間で二重課税を排除する為の相互協議を行ってもらう事ができます。相互協議において、両国当局は二重課税排除を解決するよう努める義務を負うものの、解決する義務までは負っていないことから、協議が成功し二重課税が排除されることもあれば、協議が決裂し二重課税が排除されない事もあります。 以下2024年MAP統計の概要を紹介します。

1.全世界の相互協議件数

事案種別

2023年

2024年

増減 (%)

(移転価格)

979

1,265

+286(+29%)

(その他)

1,357

1,466

+109 (+8%)

発生件数計

2,336

2,731

+395 (+17%)

(移転価格)

1,185

1,119

-66(-6%)

(その他)

1,416

1,407

-9 (-1%)

処理件数計

2,601

2,526

-75 (-3%)

2024年は、相互協議の発生件数が前年比17%増加した一方、処理件数は前年比3%減少し、発生件数が処理件数より205件多くなりました。発生件数の増加の原因としては、コロナ禍による外出制限後の2022~2023年にかけて移転価格税制をはじめとする税務調査及び課税事案が急増した結果と思われます。一方処理件数の減少を受けてOECDは、係争処理の簡素化や予防措置を含む税務確実性向上に向けた広範な取組みが引続き重要であるとコメントしています。

2.2024年の相互協議件数(主要国)

 

年初繰越

発生

処理

年末繰越

ドイツ

1,353

674

682

1,345

米国

662

329

290

701

インド

421

96

131

386

中国

170

34

37

167

日本

91

45

54

82

上記主要国の中で圧倒的に件数の多いのはドイツですが、ドイツに限らず欧州各国は国が近いので当局間の協議も頻繁に行えるためか、多くの相互協議件数をこなしています。欧州のみならず米国やインドでも相互協議は多く活用されている一方、中国や日本の件数は少なくなっています。日本は事前確認(Advance Pricing Arrangement、以下“APA”)に係る相互協議件数は非常に多いのですが、MAP統計ではAPAに係る相互協議件数は含まれていません(APA統計は後述)。

また、インドの2024年初繰越件数421件は2023年末繰越件数の662件から急減しており、統計的信頼性・整合性に問題があると思われます。

3.相互協議の平均処理期間

国名

平均処理期間

2023年

2024年

ドイツ

22.1ヵ月

21.7ヵ月

米国

27.4ヵ月

33.8ヵ月

インド

35.4ヵ月

46.4ヵ月

中国

30.7ヵ月

39.3ヵ月

日本

19.0ヵ月

27.2ヵ月

2024年に処理された相互協議事案に要した世界全体の平均期間は27.4ヵ月と、2023年の27.3ヵ月から微増にとどまっていますが、主要5ヵ国をみるとドイツ以外は全て増加しました。OECDは、相互協議の目標期間である24ヵ月に近づける為には、各国当局における追加の人員投入がのぞましいとコメントしています。

4.相互協議における解決件数(2024年)

国名

相互協議での完全合意

自国での救済

解決件数計

ドイツ

457(67%)

84(12%)

541(79%)

米国

161(55%)

31(11%)

192(66%)

インド

62(47%)

21(16%)

83(63%)

中国

16(43%)

4(11%)

20(54%)

日本

46(85%)

0(0%)

46(85%)

(カッコ内は処理件数全体に対する割合)

ドイツは多くの件数をこなしながら相互協議による完全合意率も60%超の実績は目立ちます。完全合意率は低いが自国での救済率でカバーしているインド、完全合意率は最も高いが自国での救済可能性は極めて低い日本などは、例年と同じ傾向です。

5.APA統計:2024年の二国間APA件数

 

年初繰越

発生

処理

年末繰越

ドイツ

375

77

117

335

米国

514

148

153

509

インド

343

91

81

353

中国

89

45

27

107

日本

562

195

154

603

世界全体

4,082

1,169

1,050

4,199

更正課税により生じた二重課税を排除する為の相互協議と異なり、APAでは二重課税を事前に防ぐ為の相互協議が行われます。2023年から初めてAPA統計が発表されましたが、2024年も日本が発生、処理件数共に最多となっており、APAにおける日本の存在感は大きいといえます。次に多いのが米国ですが、但しIRSはトランプ政権のもとで急速な人員削減が進められており、APA含む相互協議処理への影響が予想されます。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2025年12月号掲載記事より転載)