2023年10月:インドにおけるAPAの状況

インドの税務当局であるCentral Board of Direct Taxesは2023年9月、2022年度(2022年4月~2023年3月)におけるAPAの申請・締結状況をまとめたレポート(以下“APAレポート”)を発表しました。

APA(Advance Pricing Agreement)は、移転価格算定方法について納税者と税務当局との間で予め合意する事により、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段と言われています。APAは米国や日本においてはかなり前から行われており、APAレポートも既に米国は24回(2022年度迄)、日本も20回(2021年度迄)公表していますが、インドは比較的最近の2012年度からAPA制度を開始した為、今回が5回目のAPAレポートとなります。その概要を、主要各国との比較も交えながら以下紹介します。

  • 申請・締結件数

(表1)インド及び主要国のAPA申請・締結件数推移

年度

インド

米国

日本

中国

 

申請

締結

申請

締結

申請

締結

申請

締結

2018

171

52

203

107

163

146

 

9

2019

126

57

121

120

148

145

 

21

2020

133

31

121

127

146

122

 

29

2021

74

62

145

124

188

130

 

20

2022

193

95

183

77

    

(注)日本はBilateral APAのみの件数。また、中国は申請件数を発表していない。

APAには大きく2種類あり、自国の税務当局のみと合意するのがUnilateral APA(以下“UAPA”)で、最終的に対象取引の両国税務当局間で合意するのがBilateral APA(以下“BAPA”)です。勿論BAPAが両国での移転価格税務リスクを回避できる最も望ましい手段であり、実際米国や日本では申請・締結事案の殆どがBAPAになっています。一方インドでは、UAPAの件数が全体の大部分(3分の2から8割程)を毎年占めています。インドでこのようにUAPA件数の比率が高い理由の一つとしては、取引相手国よりもインドの方で圧倒的に税務リスクが高いケースが多いことがあげられると思います。インドは移転価格税務調査によって更正課税が行われるリスクが非常に高く、ローカルファイルなどの移転価格文書を準備していても更正されるケースも少なからずあるといわれます。その為、インドに進出している多国籍企業の多くが、本社がある国よりもインドのリスクのみを回避すべくUAPAを選択しているものと考えられます。なお、インドにおける2022年度のAPA申請及び締結件数共に、BAPAの件数が同国史上最高を更新し、全体でも2021年度に比べて大幅に上昇しました。全体としては日米に匹敵する件数になっており、APAに対し保守的な中国とは異なり、インドが積極的にAPAに対応していることがうかがえます。

  • 処理期間

(表2)直近年度締結事案におけるBAPA処理期間

 

インド

米国

日本

年度

2022

2022

2021

処理期間(ヵ月)

62.1

44.7

31.6

(注)中国はAPAの平均処理期間を発表していない。

2022年度事案のみならずインドのAPA処理期間は非常に長く、今までの全BAPA事案の平均でも58.8ヵ月と、申請から締結まで5年近くかかっており、相手国との協議がないUAPAでさえも全締結事案の平均処理期間は44.2ヵ月と4年近くかかっています。近年米国のBAPA平均処理期間が長くなっているのは対インド事案が増えている事が原因と言われていますが、インドの統計をみるとそれが納得できます。

  • 取引相手国

インドのBAPAの取引相手国は、対米国件数が圧倒的に多く、以下離れて英国、日本の順となります(全累積年度及び2022年度共)。またインドは、UAPAにおける取引相手国の件数も発表していますが、こちらにおいても米国が圧倒的に1位なのは同じですが、以下中国、フランスと続き、日本の件数は8位にとどまっています。日本企業の対インド取引におけるUAPAの活用度が低いことを示しています。

  • 所見

一般的には取引当事者両国の移転価格税務リスクを回避できるBAPAが最も望ましいものの、インドのリスクの高さからUAPAを多くの多国籍企業(日本企業は少ない)が選択している事に合理性はあると思います。しかしUAPAでも処理期間が4~5年かかってしまう可能性が高く、APAの適用期間最大5年は処理期間中に殆ど使ってしまう計算になりますので、締結後すぐにまたAPAの更新を検討する必要が生じる事になると思われます。つまり企業の税務担当者にとっては、常にAPAに追われる状態となる訳です。企業としては、抱えるインド関連税務リスクの質量に比して、APAに要する時間及び専門家に支払う高額なコストが見合うのか、慎重に見極める必要があります。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2023年10月号掲載記事より転載)