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新着情報(2015年01月15日)


シンガポールが移転価格税制を改正〜同時文書化を義務付ける

シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore、以下“IRAS”)は2015年1月6日付で移転価格ガイドラインの改正・統合版を「e-Tax Guide」としてウェブサイトで公開しました。

シンガポールは2006年2月に初の移転価格ガイドラインを発表し、その後APA、ローン取引など追加で3つの移転価格関連ガイドラインを発行していましたが、今回はこれら4つのガイドラインを一つに統合すると共に内容的に大幅な追加・改正を行い、16の章から成る本文及び添付資料を合わせて102ページに及ぶ詳細な移転価格ガイドラインとなりました。

本統合ガイドラインにおいて最も重要な改正は、移転価格同時文書化が義務付けられたことです。昨年2014年9月1日付でIRASは移転価格文書化に関する改正ガイドラインの草案を発行し、その中で(一定の免除要件に該当しない)関連者間取引を行う納税者に対し移転価格文書の法人税申告期限までの作成を義務付ける条項を新設しました。今回の統合ガイドラインでは同草案が修正された最終版が第6章(移転価格文書化)として盛り込まれました。

低税率や各種インセンティブにより投資を積極的に誘致してきたシンガポールが納税者への負担が大きい同時文書化に踏み切った背景として、経済協力開発機構(OECD)が推進するBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と所得の移転)対策との関連で移転価格税務執行が世界的に強化されていることがあると思われます。租税回避の取締りに非協力的なタックスヘイブン国とみられ先進諸国から過度の情報開示要求や各種制裁などの圧力がかかることは避けたいシンガポールとしては、同時文書化の義務付けにより、グローバルな租税回避に歯止めをかけるべく税務執行面で先進諸国と歩調を合わせているとアピールすることができます。また、外資系シンガポール子会社の親会社が本国で移転価格課税を受けた場合でも、シンガポール子会社が文書化を含む移転価格対策をしっかりと行っておけば、租税条約に基づく二国間相互協議でIRASが余計な還付を強いられるリスクが減ると思われます。

本統合ガイドラインにおける同時文書化規定の概要は以下の通りです:

  • 同時文書(Contemporaneous documentation)の定義: 関連者間取引を開始するにあたってその価格設定の根拠となる情報を含む文書。当該年度の法人税申告期限までに作成されなければなりません(※例えば2015年度に関する移転価格文書は翌2016年の法人税申告期限までに作成される必要があります)。なお、文書の新規作成日または更新日は文書に明記される必要があります。

  • 移転価格文書の種類: 移転価格文書は、「グループレベル」と「事業体(Entity)レベル」から構成されます。グループレベルでは、シンガポール法人が属する多国籍企業グループ全体の組織、財務内容や事業内容を当該シンガポール法人に関連する範囲で記述します。一方事業体レベルでは、シンガポール法人の詳細な事業内容、関連者間取引を記述した上で、それに基づいて移転価格分析を行った結果を記述します。(※この2部構成は、OECD移転価格ガイドラインの第5章「文書化」改正版で示されたマスターファイル・アプローチに準拠していると思われます。)

  • 同時文書化の免除要件: 税務リスクに比して不相応に高額なコンプライアンス費用を支払う事は望ましくないことから、以下の状況に該当する場合は移転価格文書作成の必要はありません:

    • 税率が同じシンガポール国内の関連会社間の取引
    • 同じシンガポール国内の関連会社間の貸出取引で、貸手が金融事業に従事していない場合

    • 関連者間の事務的なサービス取引(別途定義有り)に関して、コスト+5%マークアップで対価が設定されている場合
    • 税務当局からの事前確認(APA)を受けている関連者間取引
    • 一定の基準金額以下の関連者間取引(以下表の通り)

  • 移転価格文書の提出: 通常は作成義務のみで、法人税申告時の提出義務はありませんが、作成した文書を保管しておき、税務調査等によりIRASから請求された時は30日以内に提出しなければなりません。提出できなかった場合、所得税法94(2)に従った罰則(最大S$1,000の罰金または6か月以内の禁固刑)が課されます。

  • 文書の見直し: 分析の正確性、妥当性が確保されているか否かを検証するため、文書の定期的なレビューが必要としています。文書の中の分析内容に影響を及ぼすような事業上の重要な変化があった場合は文書の更新が必要としており、何れにせよ少なくとも3年に1回は文書を更新するのが望ましいとしています。

  • 文書の保存期間: 最低5年間。但し状況(※税務調査や相互協議等々)によってはより長期の保存が望ましいとしています。保管方法は、提出要請があった場合迅速に提出できるようにしておくことができる限り、紙媒体、電子媒体等自由です。
  • 文書の英訳: 英語でない移転価格文書については、IRASは請求時に英訳を要求します。

本統合ガイドラインにおけるもう一つの重要な改正点として、移転価格分析を行うに当たっての留意点が明示されました(第5章(独立企業間原則−Step 1:比較対象分析の実施))。他国に例をみないほど具体的でわかりやすく示されており、シンガポールの移転価格実務に係る関係者にとっては必見の内容です。主なポイントは以下の通りです:

  • 複数年度データ: 比較対象分析の信頼性を増すため、単年度ではなく複数年度データを検証しなければなりません。

  • データベース: 移転価格分析を行うに足る信頼できる情報ソースである限り、IRASは特定のデータベースの使用を推奨することはありません。

  • 比較対象情報: 公に入手可能な情報のみを使用すべきとしています。IRASは上場企業の比較対象情報を非上場企業に比べて優先します。

  • 国外の比較対象情報: 出来る限り国内の比較対象情報を使用すべきであり、十分に信頼できる国内比較対象情報が入手できない場合は地域(近隣国が含まれる東南アジア地域などを指すものと考えられます)の比較対象情報を検索できるとしています。

  • 損失を計上する比較対象情報の取扱い: 独立企業であれば長期間損失を計上し続ける企業は通常の事業状況にあるとはいえずデータの信頼性が低い事を考慮し、以下の条件に該当する比較対象は除外すべきとしています:

    • 検証対象期間(複数年度)において加重平均ベースで損失となっている
    • 検証対象期間(複数年度)の半分超の期間において損失を計上している(例:過去3年中2年は損失を計上)

本統合ガイドラインにより、日系企業のシンガポール子会社又は関連会社においても(上記の免除要件に該当する企業以外は)移転価格文書を毎年法人税申告期限までに作成しておかねばならないと考えられます(注)。未だ移転価格文書をシンガポールで作成したことのない企業は、必要に応じて移転価格専門家と相談の上、すぐに作成の準備を始める必要があります。また、既に移転価格文書を作成している企業でも、本統合ガイドラインの要件に基づいた移転価格分析が当該文書にて行われているかを検証し、行われていない部分については修正の必要があると考えます。

(注)上述の通り、重要な変更等に係る文書更新は少なくとも3年に一度行えばよいとなっています。しかしながら、移転価格文書は毎年法人税申告期限までに作成しておく義務がある中、文書の正確性を確保するためには検証対象、比較対象共に少なくとも財務データは毎年更新する必要があるというのが、同時文書化が義務付けられている他国における慣行であり、シンガポールにおいても例外ではないと考えられます。


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