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2018年7月:IRSの移転価格執行に関する動向

今年1月、米国の税務当局であるInternal Revenue Service(以下“IRS”)の大企業・国際部門は、移転価格に関する通達(Memorandum)を5つも発表し、移転価格の税務執行体制見直しを示唆しました(JAS月報今年4月号をご参照)。その後は今の所具体的な動きはありませんが、今月初旬(6/6〜6/7)にワシントンD.C.で行われた移転価格コンフェレンスにおいてIRSがいくつか今後の動きを示唆する発言をしていますので、興味深い点を中心に概要を紹介します。

(参照:Bloomberg BNA Transfer Pricing Report)

1.APMAチームの再編

IRSのAPA・相互協議プログラム(Advance Pricing and Mutual Agreement、以下“APMA”)のディレクターであるジョン・ヒューズ氏は、APMAにおけるチーム再編が近日中に行われる事を示唆しました。再編の内容は、チーム数を減らす代わりに各チームのメンバーを増やすこと、そして各チームはエコノミストと非エコノミストの両方を含む統合チームとすることを含むようです。

米国では移転価格実務においてエコノミスト(経済学博士号(PhD)取得者)と非エコノミスト(税務弁護士、会計士等)の役割が比較的明確に分かれており、エコノミストは移転価格分析を、非エコノミストはそれ以外の実務(移転価格税制に則した文書作成やコンサルティング等)を主に行っています。APAの審査においても、主な焦点は移転価格分析の内容でしょうが、企業の移転価格ポリシー等が問題になるケースもあり、その場合は非エコノミストが担当する必要があると思われます。今までエコノミストと非エコノミストが同じチームに併存していなかったとすると、確かに一つのチームで効率的に審査を進めることは難しかったと推測されますので、ヒューズ氏の言うようにチーム内における両者の統合が進む事は審査の効率化及び在庫(繰越案件)の減少につながることが期待されます。詳細は今後発表されるとの事です。

2.共通ベンチマークの公表

ヒューズ氏はまた、関連者間取引が独立企業間価格の範囲内に収まっているかを企業が確認できるために、IRSが特定の業種毎の共通ベンチマーク(比較対象企業セットなど)を今後公表する可能性があることを示唆しました。同氏は、APMAは同じ業種における複数の企業のケースの経験から、特定の業種においてある程度共通の結果が適用できることを認識しており、そのような共通ベンチマークを公表することは企業にとってメリットがあるはずだと述べました。しかし、実際には業界は同じでも企業によって事業、取引等の内容は異なることから、そのような共通ベンチマークはあくまで参照程度のものであるべきであり、それが税務執行においてそのまま適用されてはならない事は言うまでもないと考えます。

3.IRSの予算不足問題と高齢化が及ぼす影響

IRS国際部門の顧問官や移転価格実務家は、IRSの高齢化した労働力と政府予算の制約は、多国籍企業への税務執行プロセスに悪影響を及ぼす可能性があることを示唆しました。

国際部門のみならずIRS全体の傾向でもあるようですが、予算の縮小にどうやって対応しているかというと、高齢の職員の定年退職に後任の職員の採用が伴わない、要するに職員数の自然減が進んでいるようです。中でも特に大きく影響を受けているのがOffice of Appeals(不服審査担当局、以下“Appeals”)のようです。Appealsは税務係争事案に関し正式に和解しうる権限を持った機関であり、できる限り訴訟によることなく納税者との争いを解決することに第一義的な責任を有する部局であるとされています。その為、基本的に調査で長年の経験を有するIRS職員がAppealsに異動します。ところがそれらAppeals職員が定年等により続々と退職しているのに対し、後任の選定が遅れており、1人当たりの業務負担が更に増えた既存の職員が(そもそも彼等も高齢なので)嫌気がさして辞めてしまう悪循環になっているようです。Appealsの機能が弱まると、当然ながら和解の可能性が減りますので、訴訟に向かう事案が更に増えることが予想されるというのです。それでなくても最近は移転価格裁判におけるIRSの敗訴が目立つ状況ですので、IRSにとって更に望ましくない状況と思われます。おそらく今後Appealsの立て直しを検討する必要に迫られることが予想されます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2018年7月号掲載記事より転載)

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