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2018年10月:香港の移転価格文書化制度が最終化

経済協力開発機構(OECD)が主導した税源侵食・利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下“BEPS”)対策プロジェクトにおける三層文書化の提言に基づき、主要国では続々と自国の移転価格文書化規則を改正しています。具体的には、(a)国別報告書(企業における損益、資産等の世界的配分状況を開示する報告書、英語名はCountry-by-Country Report、以下“CbCR”)、(b)マスターファイル(企業の世界全体の事業概要を示す文書、以下“MF”)、及び(c)ローカルファイル(関連者間取引が独立企業間価格で行われている事を示す文書、以下“LF”)の作成又は提出を、各国税務当局は一定規模以上の多国籍企業に要求しています。

既に日本や中国を含め殆どの主要国ではこの三層文書化制度を施行し、日系企業も各国制度に従い文書化を行っています。アジアの中では遅れていた香港でも、2016年10月の規則案発表から2年近くかかりましたが、ようやく今年7月4日に修正法案「2018年内国歳入条例第6号(修正)」が議会により可決され、7月13日より施行されました。

1.香港の三層文書化制度の概要

(1)CbCR

CbCRについては、各国間で自動交換されるという性質上、世界共通の基準に従い、香港に本社を置く連結売上高HK$68億(750百万ユーロ相当)以上の企業(推定約150社)が、香港の税務当局であるInland Revenue Department(以下“IRD”)に決算期末後1年以内に提出(英語)、そこから関係各国に租税条約を通じて自動送付されます。適用初年度は2018年1月1日以降開始の事業年度、提出期限は決算終了後1年以内です。

このCbCRは、上記の通り香港に本社を置く企業のみ提出義務があります。但し、日系企業でも香港に子会社等を有し、且つ本社の連結総収入が1,000億円以上であれば、日本の国税庁に提出したCbCRが香港のIRDに自動的に送付されますので、それらの企業のCbCRはIRDに保有されることになると考えられます。

(2)MF及びLF

関連者間取引を有する企業は、MF及びLFを決算終了後9か月以内に英語又は中国語で作成し、且つ7年間保管する義務があります。但し以下の場合は作成義務が免除されます。

A.事業規模基準: 以下の3要件の内2つ以上に該当する場合、MF及びLFの作成が免除される:

1.売上高がHK$4億(約56億円)以下

2.総資産がHK$3億(約42億円)以下

3.従業員数が100人以下

上記1.の売上高基準及び2.の総資産基準は、2016年10月の当初草案では共にHK$1億(約14億円)でしたが、基準が低すぎ多くの中小企業が対象になってしまうという企業側からの批判を受け、最終的には大幅に緩和されました。

B.取引額基準:以下に該当する一定額以下の関連者間取引はLF作成が免除される。また全ての関連者間取引においてLF作成を免除される企業は、MF作成義務も免除される:

1.有形資産売買額:HK$2.2億(約30億円)以下

2.金融資産取引額:HK$1.1億(約15億円)以下

3.無形資産取引額:HK$1.1億(約15億円)以下

4.その他取引額: HK$44百万(約6億円)以下

この取引額基準は、当初案にはなかったものですが、少額の関連者間取引のみ有する企業の負担軽減の為、途中から追加されました。

また、双方が香港域内の関連者間取引は原則移転価格税制の適用対象外となりました。

適用初年度は2018年4月1日以降開始の事業年度となっていることから、3月決算企業は2019年3月期、12月決算企業は2019年12月期が各々適用初年度となります。尚、MF及びLFに記載する内容については、OECDガイダンス(BEPS行動13報告書)に完全に準拠しています。

2.今後の税務執行と対策

前述の緩和された事業規模基準及び取引額基準を超える在香港日系企業の数は必ずしも多くないかもしれません。但し該当する企業は、決算終了後9か月以内、つまり税務申告期限内にMF及びLFを作成しておかねばなりません。提出の必要はないものの、後日税務調査が入った時に期限までに作成したか否かがチェックされ、していない場合は最大HK$10万(約140万円)の罰金が課されるのに加え、移転価格更正課税を受けるリスクが高まります。

従来香港は厳しい税務執行とは無縁でしたが、今後はOECD主導の世界的な租税回避防止行動に協調せざるを得ないと思われます。少なくともこのような規則が施行された以上、上記諸基準でMF及びLF文書化が免除されない可能性の高い企業は、IRDの税務調査候補リストに入る可能性がありますので、必ず期限までに文書化を行い備えておく必要があります。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2018年10月号掲載記事より転載)

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