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2017年8月:急速に進むOECD主導の対BEPS対策

経済協力開発機構(OECD)がG20と共同で行うBEPS (Base Erosion and Profit Shifting、“税源浸食と所得の移転”の意)対策プロジェクトにおける15の行動項目に関する最終報告書パッケージが2015年10月に公表されて以来、それを受けたOECDのガイダンスや各国における移転価格税制改正等が着々と進んでいますが、最近はその動きが加速しています。本稿では、その中でも以下2つの重要な進展について紹介します:

1.多国間協定への署名

2017年6月7日、日本を含む68か国・地域(中国と別に香港をカウント)が「BEPS防止の為の租税条約関連措置を実施するための多国間協定」(Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent BEPS、以下“多国間協定”)に、フランスのパリにおいて署名しました。

(1)目的及び範囲

多国間協定は、BEPS対策プロジェクト最終報告書のうち行動15「二国間租税条約改定のための多国間協定の開発」の勧告に基づくもので、BEPS防止措置のうち租税条約に関連する措置を、各国が有する既存の二国間租税条約に導入することを目的としています。

具体的には、BEPS対策プロジェクトの以下4つの行動項目に関する最終報告書が勧告する租税回避防止措置が含まれます。

行動2:ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化(二重非課税が生じるような租税回避状態に対する各種防止措置)

行動6:租税条約の濫用防止(租税条約の恩典適用の有無の判断に関する主要目的テスト規定等)

行動7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避防止(代理人PEの定義拡張に関する規定等)

行動14:相互協議の効果的実施(強制的仲裁制度の規定等)

(2)適用は任意

多国間協定は、上述の通り租税条約の全てをカバーするものではありませんが、締結国は租税条約に関連するBEPS防止措置を、多数の既存の租税条約について同時並行的に実施することが可能となります。但し各締結国は、既存の租税条約の中でどの国との条約を多国間協定の適用対象とするかについて、及び多国間協定のどの規定を適用するかについて選択できるという、締結国の裁量を認めた柔軟な制度になっています。例えば日本は、35か国との租税条約を適用対象として選択しており、また「配当移転取引に対する軽減税率適用の制限に関する規定(第8条)」など5つの条項について適用しないことを選択しています。尚、署名した締結国の一定数が各国内で批准した後に多国間協定は効力を生じます。

(3)米国は署名せず

残念ながら、多国間協定を署名した68か国・地域に米国が入っていません。米財務省の高官は今回署名しなかった主な理由として(1)米国の租税条約ネットワークは広範で内容的にも多国間協定に含まれる租税回避措置を既に含んでおり、租税回避の可能性は少ない、(2)署名に当たって必要な国務省や上院議会の承認を未だ得ていない、をあげており、将来的には署名する可能性がある事を示唆しています。しかし、超大国の米国の不署名により多国間協定の実効性が損なわれることは間違いないでしょう。そもそも、BEPS対策プロジェクト発足のきっかけが、グーグルなど米系多国籍企業の巨額な節税スキームの発覚であったことからも、それら企業のお膝元である米国の早期署名は倫理的にも実質的にも望まれるところです。

2.OECD移転価格ガイドラインの改正

殆どの国の移転価格税制の指針となっているOECD移転価格ガイドライン(Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations)の全面改正版が2017年7月10日付で発表されました。全面改正は2010年以来となりますが、主な改正点の殆どがBEPS対策プロジェクトの行動8-10及び行動13の最終報告書で示されたもので、本稿でも過去に何度か言及しています。つまり、行動8-10は、実際の経済活動が行われ価値の創造される場所で利益計上&課税が行われるべきとの原則に基づき、無形資産の定義や無形資産・サービス取引に関する算定根拠の見直しなどが提言されています。一方行動13は移転価格文書化に関する大幅な見直しで、マスターファイル、ローカルファイル及びCountry-by-Countryレポートの三層構造文書化を推奨しており、既に日本を含む多くの主要国でこの三層文書化制度が施行されています。但し利益分割法に関しては、6月22日に改正草案が出たばかりで未だ最終化されていないことから、今後追加で第2章の相応部分が改正の予定です。

本改正移転価格ガイドラインの中で、三層構造文書化に続き、HTVI(Hard-to-value intangibles、価値評価の難しい無形資産)について事後的な結果を適用できる“所得相応性基準”の採用などを含む無形資産関連の改正についても、それを受けた税制改正が日本で見込まれています(米国は既に所得相応性基準を導入済)。そうなると、日本企業が海外子会社から徴収するロイヤルティ取引についての国税当局による税務調査が更に厳しくなると予想されますので、注意が必要です。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2017年8月号掲載記事より転載)

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