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2017年7月:OECDが利益分割法に関する改正ガイダンス草案を公表

経済協力開発機構(“OECD”)は2017年6月22日付で、「BEPS (課税ベース侵食と利益の移転)行動10:利益分割に関する改正ガイダンス草案」を公表、併せて2017年9月15日迄パブリックコメントを募集すると発表しました。

既に2015年10月に発表されたBEPS対策プロジェクトの行動計画8-10最終報告書「移転価格結果と価値創造の適合」の主旨は、多国籍企業が有する世界的バリュー・チェーンの中で、実際の経済活動が行われ価値が創出されている場所で課税が行われるべきであるというものです。実体重視の考え方自体は合理的であるものの、価値という概念がより強調され、価値に応じてグループ間で利益が配分され公平に課税されるべきという利益分割法的な考え方に近くなっています。これは、経済実体がなく価値を創造していない軽課税国への利益移転を防止したいという先進国の意図は勿論ですが、それと同時に、従来のTNMM(米国ではCPM)のように子会社の利益率を現地の比較対象企業と比べる方法では現地子会社に多くの利益を帰属させるのが難しいと考える中国はじめ新興国の意図にもかなっています。つまり新興国は、利益分割法において子会社の価値貢献を主張し、より多くの利益を自国に帰属させたいと考えています。BEPSはOECDとG20諸国の共同プロジェクトであり、G20加盟の新興国の意見が反映されたのは現在の世界経済における力関係を示しているともいえます。

本ガイダンスは、当初2014年12月に発表以来今回が2回目の改正となりますが、実質的な部分は大きく変わっていないといえます。以下、今般改正ガイダンス草案の概要を紹介します。

1.利益分割法の適用が最適な場合

(1)関連者取引の両当事者共にユニークで価値のある貢献を行っている場合→価値ある無形資産を持たない当事者(通常子会社)の利益率を比較対象企業と比較するTNMM/CPMは使えない。

(2)高度に統合された取引の場合→例えば金融機関におけるグローバルトレーディング事業は、ディーリング、マーケティング、資金調達等が違う拠点で行われていても高度に統合されており、取引/拠点単独の算定が難しい。

(3)経済的に重大なリスクを関連者間で共有している場合→(1)、(2)はBEPS以前からOECD移転価格ガイドラインに存在しますが、この(3)が新しい定義といえます。本ガイダンス草案では重大なリスクを共有する例として、研究開発・製造を行うA社とマーケティング及びグローバルな流通販売を行うB社のケースをあげています。

2.利益分割の方法(従来通りにて詳細は省略)

寄与度利益分割法及び残余利益分割法

3.分割対象利益の決定

(1)実際の利益か、予想利益か→経済的に重大なリスクが既に共有されている場合は実際の利益を分割対象とすべきだが、どちらか一方が未だ重大なリスクを負っておらず、取引開始後に負うことになる場合は、今後のリスク共有に対応する予想利益を分割対象とすべきである。

(2)利益の単位→通常は営業利益であるが、販売管理費を各当事者に同じ基準で配分出来ない場合等、粗利益を用いるべき場合もあり。

4.利益分割の指標

状況により、利益創出への貢献度を測るのに最適なファクターを選択。通常は資産、資本、コストが用いられるが、他には売上増加、給与額、勤務時間等が用いられることもある(ここまではほぼ従来通り)→それに加え、適切な利益分割指標を特定するためにマスターファイルが有益な情報を提供するかもしれないとしています。また、コストの使用については、使用時期の違い(→現在価値に引き直す調整が必要)など価値創出の貢献度測定ツールとして問題点があることを指摘しています。

所見

利益分割法の適用が最適な場合として今回加わった(3)については、特に新興国で、普通の販売機能を重大なリスクとみなす等拡大解釈のリスクがあると思われます。よって、加える場合はより厳格な定義付けが必要と考えます。

また、最適な利益分割指標を決定する為の手段としてマスターファイルの参照が記されましたが、マスターファイルはあくまでも企業グループ世界全体の大まかな概要情報を提供するものであり、参照程度とはいえ利益分割ファクター決定の材料に使えるような記述は適切でないと考えます。

以上、利益分割法の改正ルールについては従前と大きな変化はないものの、新興国の主張が少しずつ反映されてきている感があります。それに対して米国の動きの遅さが気になります。BEPS最終報告書後、CbCレポート制度はつくりましたが、無形資産や利益分割法に関する規則改正やマスターファイル規則の発表も未だありません。トランプ政権発足後の政府高官任命の遅れなどの混乱が税務行政にも影響を与えているのか(それにしてはオバマ政権時から既に動きは遅いですが)、またはマスターファイル等の過剰な追加負担を嫌う米大企業からの圧力があるのでしょうか。いずれにせよ、移転価格のパイオニアであり、未だ世界最大の大国である米国には、やはり一定のリーダシップを発揮してほしいと思います。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2017年7月号掲載記事より転載)

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