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2017年4月:米国のBEPS対策(行動13)推進状況

OECDとG20諸国によるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源の侵食と利益の移転の意)対策プロジェクトの中でも特に行動13(移転価格文書化)については、主要国がBEPS最終報告書に基づき国内税制を改正しています。具体的には、既に何度か本稿でも記しましたが、マスターファイル、ローカルファイル及びCbCR(Country-by-Country Report、国別報告書)という3層構造の文書化を一定規模以上の多国籍企業に義務付けるという制度です。

1.CbCR

特にグループ全世界拠点の財務、税務情報等の網羅的な開示資料であるCbCRについては、連結売上高が?750百万以上の多国籍企業に対し2016年1月以降に開始する財務年度から適用され、決算期末後1年以内に提出義務を課す事がBEPS最終報告書において推奨されており、既に多くの主要国はCbCRの2016年度からの提出義務を含む税制改正を行っています(但し日本は2016年4月以降開始年度からの適用にて、12月決算の企業は2017年度からの適用となります)。

このような状況の中、米国でも2016年6月29日にCbCRの最終規則(T.D. 9773)が発行されました。内容としては、連結売上高USD850百万以上の米国に本社を置く企業に、全世界グループに係る国別の財務、税務情報及び企業別の事業内容情報を含むフォーム(Form 8975)の提出義務を課すものです。Form 8975は未だ最終化されていませんが、最近、今年(2017年)2月23日付でようやくドラフトが発表されました(正式には今年6月発行の予定)。ドラフトを見ると報告内容はBEPS最終報告書と実質的には全く同じです。つまり、同Formには2つの表があり、一つは税務上の管轄国毎に売上高(第三者向け、関連者向けの内訳有)、税引前利益、支払法人税額(現金ベース及び会計上)、資本金、剰余金、従業員数、有形資産額(現金等を除く)の各数字の国別合計を記入する表、もう一つは全世界のグループ会社を税務上の管轄国毎に並べ、各企業の主な事業内容を明記する表です。

このように米国においてCbCRのフォーム最終化が遅れている原因は、適用年度に関係があります。最終規則T.D. 9773で示された適用開始年度は、2016年7月1日以降開始の財務年度からとなります。つまり、BEPS最終報告書により推奨された2016年1月以降に開始する財務年度より半年遅れとなります。例えば、2016年1月以降開始事業年度からCbCR提出義務を適用した中国とドイツに子会社を持つ米国企業は、本国の米国では2016年12月期に関するCbCRの提出義務はないにもかかわらず、中国及びドイツでは2016年12月期のCbCRを2017年12月末日までに提出する必要が生じます。CbCRは本来、本社を置く自国の税務当局に提出し、各国間の租税条約又は情報交換規定に基づいて国家間で自動的に提供されますので、本例ではIRSから中国とドイツの税務当局に当該米国企業のCbCRが提供されます。しかし2016年12月期に関しては米国では適用対象前の年度の為、IRSが企業の自主的な提出を受け入れてくれないと、その企業は中国、ドイツにおいて2016年12月期に関するCbCRを2017年12月末までに個別に提出しなければなりません。規模が大きい企業ほど全世界的に多くの国に関してそのような個別のCbCR提出が必要になり、多大な追加事務コスト負担を伴うため、米国で適用義務のない2016年12月期に関してもIRSが米国企業の自主的なCbCR提出を受け入れ、関係各国に自動交換することが要望されていました。それを受けてIRSは今年1月19日付でRevenue Procedure 2017-23を発表し、2016年1月以降開始年度に関する自主的なCbCR提出の受け入れ、及び関係各国への自動情報交換が認められることとなりました。

2.マスターファイル及びローカルファイル

一方、3層構造文書化の残り2つであるマスターファイル及びローカルファイルについても、日本を含め主要各国では既に税制改正が行われていますが、米国では今のところ何の動きもありません。ローカルファイルについては、米国が世界に先駆けて作成を義務化した移転価格documentationと実質的にほぼ同じですが、マスターファイルは全世界拠点のサプライチェーン、無形資産、金融取引などの情報を包括的に記載する文書で、現状の米国文書化規則の範疇を超えると考えられます。それにもかかわらず米国の動きが他の主要国に比して極めて遅いのは、元々対BEPSプロジェクトが米国大企業の節税・租税回避をターゲットとして進められた経緯もあり、米国が主導権を握っていないことも原因の一つでしょうか。BEPS最終報告書では2020年末までに導入状況のレビューが各国に求められていることから、米国もいずれはマスターファイル及びローカルファイルを導入する必要があると思われます。日系企業にとっても、特にマスターファイルは自動情報交換ではなく各国で提出する必要があり、米国で制度化されれば追加の事務コスト負担が生じる為、米国の動向を引続き注視すべきです。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2017年4月号掲載記事より転載)

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