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2017年3月:シンガポールの移転価格ガイドライン改正(第4版)

シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore、以下“IRAS”)は2017年1月12日、移転価格ガイドラインの改訂版(第4版)を発表しました。今回は主に、経済協力開発機構(OECD)とG20諸国による対BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源侵食及び利益移転の意)プロジェクトに則した改正が行われ、シンガポールが国際的な税務執行体制に協調する姿勢が示されています。主な変更点は以下の通りです(詳細はIRASホームページから、Transfer Pricing Guidelines (Fourth Edition)をご覧ください)。

1.移転価格と価値創出の適合

本改訂版においてIRASは、対BEPS行動8-10の最終報告書に基づき、利益を生む実際の経済活動が実行され、価値が創出される場所で課税が行われるべきであることを明示しています。また、企業が契約上リスクを負っているだけでなく、それら経済的に重要なリスクを引受・管理できるだけの財務能力及び事業遂行能力を備えていることを実証するための詳細なリスク分析を求めています。

この考え方は対BEPSプロジェクトの根本的な方針の一つであり、世界的にも多くの主要国税務当局が主張するようになっています。ただ、シンガポールがこのように移転価格の事業実体への適合を主張することは、シンガポールに本社を置き更に税率の低い国に利益を移転しようとする企業に対しては有効でしょうが、税率の比較的高い欧米や日本に本社がある多国籍企業のシンガポール現地法人に対しては、一見所得及び法人税額を減らす方向に作用するように思えます。しかし、それら主要国やOECDから租税回避の防止に積極的でない国としてブラックリストに載せられるとそれらの国々からの直接投資が減るリスクがありますので、OECDが主導した対BEPS報告書の内容に則した税制改正を行うことが、長期的にはシンガポールの利益になるとの考えがあるものと思われます。又は、利益を上げることを正当化する為に人や設備を増やすなどシンガポールでの実体を強化してもらえれば、シンガポール経済にとって望ましいという意図があるかもしれません。

2.セーフ・ハーバー規定の追加

従来のシンガポール移転価格ガイドラインでは、日常的なサービス取引については、それらサービス提供に要した費用に5%の利益を乗せた価格をサービス・フィーとしていれば、当該価格についてそれ以上の移転価格分析を必要としないという、いわゆるセーフ・ハーバー規定がありました。今般改正ではそれに加えて、一定規模以下の関連者間融資取引に適用されるセーフ・ハーバー金利規定が新たに設けられました。在シンガポール企業が貸出し又は借入れた15百万SGD相当以下(金額はコミット枠残ベースで、実残ベースではない)の新規融資取引に適用されます。

具体的には、変動金利取引の場合はLIBOR、SIBOR等の銀行間金利、固定金利取引の場合は固定スワップ金利(SGD建て融資取引の場合は国債利回りも可)のベースレートに、固定の金利マージン(2017年は2.5%)を加えた利率がセーフ・ハーバー利率として適用されます。企業がセーフ・ハーバー利率を適用しないことを選択した場合、適用する利率が独立企業間原則を満たしている事を示すための移転価格分析を別途実施する必要があります。

セーフ・ハーバー利率を適用すれば、コストのかかる移転価格分析を実施する必要性が無くなるため、少額の関連者間融資取引を有する企業にとっては朗報です。但し、セーフ・ハーバーのような固定利率は、相手国の移転価格規則に準拠しない可能性があります。例えば、ある企業のシンガポール拠点が日本の関連会社にセーフ・ハーバー利率である円LIBOR+2.5%で貸出を行った場合、今の日本の超低金利と銀行の激しい貸出競争環境の中、2.5%のスプレッドが日本の税務当局に独立企業間金利と認められる可能性は通常は低いと思われますので、慎重な検討が必要です。

3.文書化

既に昨年10月に別途発行されたガイダンスの通り、シンガポールに本社がある連結売上高1,125百万SGD(約900億円)以上の多国籍企業は、国外関連会社の開示情報であるCountry-by-Country Report(“CbCR”)を、2017年度分より決算期末後12か月以内にIRASに提出することが義務付けられますが、本改訂版においてもCbCR提出義務が明記されました。そのようにCbCRについては対BEPS行動13の最終報告書に基づいていますが、日系など外資企業に関連するマスターファイルとローカルファイルに関する規定は本改訂版でも未だ導入されませんでした。よってそれらの部分は引続き行動13に準拠していないことになりますが、手間のかかるマスターファイルの規定などない方が多国籍企業にとってありがたい事は確かです。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2017年3月号掲載記事より転載)

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