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2017年2月:ASEAN諸国の移転価格・BEPS対応状況

経済協力開発機構(OECD)とG20諸国が共同でまとめた税源侵食・利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下“BEPS”)対策プロジェクトの最終報告書(2015年10月)に基づき、日本では昨年の税制改正により(a)国別報告書(Country-by-Country Report、以下“CbCR”)(b)マスターファイルの提出義務、及び(c)ローカルファイルの申告時同時作成義務という三層構造の文書化制度が設けられました。BEPSプロジェクトで主導権を握れなかった米国の動きは遅いものの、中国、韓国など近隣諸国や主要各国でも続々とBEPS対応の移転価格税制改正が行われています。

最近、賃金上昇、経済減速、日中関係悪化など“中国リスク”の高まりを受け、中国に代わる海外進出先として東南アジア諸国連合(“ASEAN”)各国への注目度がより増しています。それらASEAN各国間での温度差はかなりあるものの、主要国ではBEPS対策の法制化が着々と進んでいます。以下、最近動きがあった3か国の状況を紹介します。

1.シンガポール

シンガポールは、BEPSプロジェクトの主体であるOECD及びG20に属していませんが、2016年6月、BEPSプロジェクトに準加盟国として参加することを表明しました。シンガポールは低税率で投資を誘致している国なので、BEPSの主旨である利益の国外移転防止自体にはあまり関心がない筈です。それでもBEPSプロジェクトに参加するのは、租税回避防止や情報開示に積極的でない国としてOECDのブラックリストに載ってしまうと対内投資や経済への悪影響が大きいとの判断と考えられます。それにより、シンガポールに本社を置き、グループ売上が年1,125百万S$(900億円)を超える企業は2017年度を対象初年度としてCbCRを提出する義務が生じました。

一方、マスターファイル、ローカルファイルについては未だ制度化されていませんが、既に2015年1月に施行された文書化制度によれば、移転価格文書は「グループレベル」と「事業体レベル」により構成されています。「グループレベル」がマスターファイルに、「事業体レベル」がローカルファイルに準じたものと考えられますが、それらがBEPSベースにて正式に切り分けられ、マスターファイルの提出義務を生じる税制改正が行われるのか、またそれによりシンガポール国外に本社のある日系含む多国籍企業へのコンプライアンス負担がどの程度増すのかが注目されます。

2.インドネシア

インドネシアは、毎年非常に高い税収目標を掲げ、そのためか移転価格を含め税務調査が非常にアグレッシブである事で悪名高い国です。但し報道によれば、世界中でまともに税金を払っていないGoogleのジャカルタ事務所に昨年強制捜査に入り、多額の追徴課税を要求しているとの事です。Googleのような超強大企業に対する勇気ある執行は、米国系IT企業に対し殆ど課税できていない某国の税務当局とは大違いです。

そのインドネシアでも、昨年末の2016年12月30日付で、三層構造の文書化に関する新しい財務省規則(MoF 213/2016)が交付されました。具体的には、(1)売上高が年500億ルピア(約4億円)超、(2)関連者間売買取引額が年200億ルピア超、(3)その他金利、役務提供などの関連者間取引額が年50億ルピア超、(4)インドネシア(法人税率25%)より税率の低い地域との関連者間取引を有する、の何れかに該当すれば、マスターファイル及びローカルファイル、つまり二層文書を決算終了後4か月以内に作成する義務を負います。更に、(1)連結売上高11兆ルピア(900億円台)以上のグループ親会社、又は(2)CbCR提出義務のない国やインドネシアと情報交換規定のない国等に所在する企業の子会社は、12か月以内のCbCR作成義務があります。

なお本規則は2016年度の移転価格文書からの適用を意図しているようです。すなわち、2016年12月期のローカルファイル及びマスターファイルを2017年4月末日までと短期間で作成の必要があるということです。日系企業にとっては、本国日本では連結売上高1,000億円以上の企業のみがマスターファイル作成義務を負いますが、インドネシアでは現地法人の売上が約4億円以上あればマスターファイル作成義務を負う事から、インドネシアの為だけに(グループ全世界ベースの概要を記した)マスターファイル作成を強いられる企業も少なくないでしょう。

3.ベトナム

ベトナムでは2016年10月に、2017年1月からの適用を見込んだ新・移転価格法令の草案が発行されました。ここでも三層構造の移転価格文書化が、売上高500億ドン(約2.5億円)超又は関連者間取引額が300億ドン超の企業に対し義務化されます。本草案は現時点で最終化されていませんが、インドネシアより更に少ない売上額でCbCRも含む三層構造の文書化が必要になるという意味では、三ヵ国中最も負担の大きい制度になるかもしれません。そのままの内容で最終化されるのか、注意深く見守る必要があります。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2017年2月号掲載記事より転載)

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