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2016年9月:Medtronicが租税裁判所で実質勝訴

Medtronic課税案件(詳細は後述)に関して、Medtronic社の提訴から5年以上を経た2016年6月9日、租税裁判所は米国内国歳入庁(“IRS”)の用いた算定方法を否認、実質的に原告のMedtronic社が勝訴しました。

1.Medtronic課税案件の概略

IRSは、MPROCが米国本社(当時)に支払っていた当初のロイヤルティ料率である機器売上の29%及びリード線売上の15%が低すぎるとし、それぞれ44%、26%へと料率を引上げるべきと主張、Medtronic社も合意しました。それにもかかわらず、その後IRSはMPROCの利益率が高すぎるとして当該合意を一方的に破棄し、第三者である民間専門家に再分析を委託しました。その結果、MPROCはリスクの限定されたシンプルな加工子会社であると認定した上、MPROCの利益率を比較対象企業の範囲に収めるComparable Profits Method(“CPM”)を適用、2005、2006年度について約14億ドルの移転価格所得更正を命じました。

Medtronic社は同課税処分を不服として、2011年3月に米国租税裁判所に提訴、その中で、MPROCが米国本社に支払うロイヤルティ料率は、IRSとやむなく合意した引上げ後の水準でなく、Comparable Uncontrolled Transaction Method(独立取引比準法、以下“CUT法”)に基づき、元々支払っていた水準(機器売上の29%、リード線売上の15%)が妥当であると主張していました。

2.租税裁判所判決の概要

米国租税裁判所のKathleen Kerrigan判事は判決理由の中で、MPROCはプエルトリコにUS FDA(米国食品医薬品局)の認定を受けた3つの工場を有し、従業員約2,300人を雇用し、自らの責任で第三者から購入した部品を基に心臓および神経症治療のためのクラス3(最もリスクが高く規制が厳しい医療機器)の医療機器を製造している自主独立型メーカーであり、技術者が設計・品質改善、製品のテスト、滅菌等を行っているという事実からも、MPROCは明らかに単なる受託加工業者以上の役割を負っていることを認めました。従って、このようなMPROCによる利益への貢献度を過小評価したIRS及び民間専門家のCPMによる算定は独断に基づいた不合理なものとして却下しました。つまり租税裁判所は、MPROCがCPMで算定可能な受託加工会社ではなく、重要な無形資産を保有しており相応の残余利益を得る権利がある事を認めたのです。

 

一方で租税裁判所は、移転価格算定方法はMedtronic社の主張するCUT法の適用を認めつつも、料率自体については同社が主張する機器29%、リード線15%ではなく、機器44%、リード線22%と、IRSと以前合意したものに近い水準が正しいとしました。よって同社の主張が全面的に認められなかったものの、実質的内容としては同社の勝訴といえます。なお、ロイヤルティ以外の関連者間取引を含めた本判決による最終的な更正金額は後日出る予定であり、IRSが本件に対し控訴するか否かも現段階では未定です。

3.本判決の影響

IRSは、巨額の移転価格課税に関する訴訟でまたも敗訴してしまい、移転価格税制執行に関する権威は更に地に落ちた感があります。今回のIRSの敗因としては、(以前から他の件でも指摘していますが)分析を委託先の民間専門家に丸投げし、MPROCに関する事実認定などをおろそかにした事、及びMedtronic社が適用しIRSと合意したCUT法を破棄してまでCPMを採用した理由を明確に示さなかった事などが挙げられています。

本判決は、Medtronic社及び同様なスキームを有する多国籍企業にとっては朗報でしょうが、専門家の中には今回の判決を逆に懸念する声もあります。その主な理由の一つは、たとえMPROCが単なる加工製造にとどまらない複数の機能を有していたとしても、売り先はMedtronic社1社であり、MPROCのリスクはやはり限定されていることから、CPMが適用されるべきではないかという事です。実際、本件のようなケースで子会社が重要な無形資産を有することを認めてしまうと、中国など子会社を多く有する新興国が「我が国の子会社も重要な無形資産を有している」という既に行われている主張を更に強めてくるおそれがあります。

このように、専門家筋からもIRSの手法を擁護するような意見が出てくるのは珍しい事を考えると、IRSは本件について控訴する価値はあるかもしれません。しかし、医療機器業界という特殊性を除いて普通に考えると、44%という高率のロイヤルティ率で合意したにもかかわらず、更に14億ドル(約1,500億円)という巨額の更正課税を行うというやり方は「とれる所からとる」にしても欲張り過ぎと思わざるをえません。少なくとも今後は、分析を丸投げ委託せず、納税者との合意を破棄してまで採用した算定方法についてはその妥当性を合理的に納得できる様に説明して頂きたいものです。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

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