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2016年8月:Facebookが米国で巨額の税務リスクに直面

Apple、Google、Amazonなど米国の巨大IT企業の多くが行っているアグレッシブな節税が、独立企業間原則に反しているとして米国内外で巨額の移転価格課税を受け、又は税務調査を受けています。世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるFacebook, Inc.(以下“Facebook社”)については今まで不思議に名前が出てきませんでしたが、アグレッシブな節税を行っている事に関しては例外ではない事が今般明らかになりました。

米国の内国歳入庁(“IRS”)は2016年7月6日に米国カリフォルニア州の地方裁判所に訴状を提出し、Facebook社の関連者間取引価格に関する税務調査のため同社に対して発した書類、データ等の提出命令を執行するよう要請しました。訴状によると、IRSはFacebook社に対し要求した書類提出命令に対し同社が提出を拒んでいる為、同命令の執行を求めて提訴したようです。追徴課税後にその取消しを求めて企業側が提訴するのではなく、課税前に税務当局側が資料提出を求めて提訴するのは珍しいケースといえます。

IRSのFacebook社への税務調査で焦点となっているのは、アイルランド子会社に対して親会社が有していた北米(米国、カナダ)以外の世界各国の事業に関する権利を譲渡した、いわゆる無形資産譲渡取引です。以下、訴状より明らかになった事実の概要を紹介します。

事実関係                         

IRSは2013年に、Facebook社が2010年に行った関連者間無形資産譲渡取引に関する税務調査を開始しました。同取引は、米国本社が有していた米国、カナダ以外の顧客ベース、マーケティング無形資産、及びFacebookの「オンライン・プラットフォーム」などの無形資産の使用権を、2009年に設立されたばかりのアイルランド子会社であるFacebook Ireland Holdings Unlimited(以下“FIHU”)に譲渡し、譲渡後にはFIHUがそれら無形資産の保有者(ライセンサー)となる旨の契約を本社とFIHU間で締結しました。FIHUは、これらの譲渡された無形資産をベースに、それ以降は北米以外の顧客ベース拡大、オンライン・プラットフォーム開発に努め、相応の利益を計上する事が正当化されたことになります。

問題は、それら無形資産は元々Facebook本社でつくられ、同社の発展に寄与していると考えられることから、その譲渡価格は(第三者への売却に準じて検討すべき事も考慮すると)相当に高いものでなければならないと考えられる事です。IRSは、Facebook社の税務アドバイザーであるErnst&Young LLP(“EY”)が本件譲渡対象である無形資産を大幅に過小評価したと考えています。

譲渡価格の算定方法が追及の対象

IRSによると、EYはFIHUに譲渡された無形資産の価値評価の際、顧客ベース、マーケティング無形資産及びオンライン・プラットフォームの価値をそれぞれ個別に算定した模様です。それに対しIRSは、税務調査時にインタビューを行った従業員が、これらの無形資産は一体であると示唆していた事などを理由として、EYによる各無形資産を個別に算定する方法は問題であると判断、2015年4月、本件無形資産は何十億ドルも過小評価されているとの見解を同社に提示しました。今年2016年4月付の開示資料によれば、Facebook社の未確定(=更正される可能性が高い)税務ポジションは2015年12月末付で24.6億ドル(約2,500億円)となっており、その多くが本件無形資産譲渡取引に関するものと推測されます。

IRSは、顧客ベース、オンライン・プラットフォームなどの無形資産が本当に区別可能なのかを把握する事などを目的に多くの追加資料提出要請を行いましたが、Facebook社がIRSの主張を受け容れず、資料提出にも応じないなど強硬に抗戦している為、本件提訴に踏み切ったようです。

法的形式と経済実態の関係

最近OECDがBEPSプロジェクト最終レポートで示した通り、現在の世界共通の認識としては、多額の利益計上を正当化できるような高付加価値の無形資産を低税率国の拠点が保有していると認められる為には、単に無形資産の譲渡契約締結や金銭等対価の譲渡が行われているという法契約的側面のみならず、その拠点が実際に当該無形資産の開発・管理、又は関連する事業活動を実際に行っているという経済的実態が必要と考えられます。IRSはその観点からも、FIHUが実際にアイルランドで利益を生み出す事業活動を行っているか調査しているようです。

今後の見通し

米国における税務調査の時効は、本件のように申告漏れ金額が重大な場合は6年であることから、2016年7月末日までにIRSが更正課税通知を行わないと本件は時効となるようです。更正課税通知が期限内に行われればIRSの資料提出命令は裁判所に認められますが、そうでなければ本提訴は裁判所に却下される可能性が高いようです。Facebook社が資料提出を拒むなど強気なのも、IRSの人手・情報不足等簡単に更正通知が出せない事情を察知している可能性があります。IRSもこうなったら強引にでも更正通知を出してくるでしょうが、準備不足の中での更正課税は、他の多くの案件のように後日敗訴する可能性がありますので、難しい判断を迫られるかもしれません。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2016年8月号掲載記事より転載)

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