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2016年2月:移転価格文書化規定(平成28年度税制改正大綱)に関する実務的留意点

先月号で紹介した平成28年度税制改正大綱における移転価格税制の文書化規定について、その詳細及び実務的留意点を説明します。

                        

(1)国別報告事項(CbCレポート)

国別報告事項(Country-by-Country Report、以下“CbCレポート”)とは、要するに国外の関連会社情報の開示報告書(日本の法人税申告書別表17(4)に相当)です。報告項目について大綱では「『BEPSプロジェクト』の勧告で示されたOECD移転価格ガイドライン(以下“OECDガイドライン”)第5章改定案の別添3に示された記載項目」としており、報告言語も英語としていることから、OECDガイドライン第5章別添3をそのまま使用する形になりそうです。

別添3には2つの表があり、一つはTable 1で、全グループ会社を税務上の管轄国毎に並べ、各企業の主な事業内容(研究開発、無形資産の保有管理、購買、製造、販売、管理、第三者向けサービス、グループ金融、認可された金融サービス、保険、持株会社、休眠会社、その他の計13項目)の該当欄にチェックを入れるフォームです。もう一つのTable 2は、売上高(第三者向け、関連者向けの内訳有)、税引前利益、支払法人税額(現金ベース及び会計上)、資本金、剰余金、従業員数、有形資産額(現金等を除く)の各数字について、国別に合計値を記入するフォームです。

                        

以上の通りCbCレポートの報告項目は別表17(4)とあまり変わりませんが、問題は、同レポートが日本の国税当局から(租税条約を日本と締結している)関係各国に自動的に送られることです。関連会社が所在する全ての国の利益率等が比較できてしまう為、利益率の低い国の税務当局に悪印象を与え税務調査のきっかけとなる可能性があります。各拠点間で合理的に説明できる範囲を超えた大きな損益のブレが生じないよう、出来るだけ本社でコントロールすることが望まれます。

CbCレポートの作成自体は事実と数字の記載ですので、後述するローカルファイルのように移転価格分析に関し専門家の手を借りる必要は無く、多くの拠点があり手間がかかるとしても企業自ら作成すべきです。勿論、先月号で紹介の通り、連結売上高が1,000億円未満の企業は免除されますので、多くの中堅・中小企業では作成の必要はありませんが、現地法人が所在する関係各国の規定には注意する必要があります。

(2)マスターファイル

 マスターファイルに記載すべき事項として大綱では「多国籍企業グループの組織構造、事業の概要、財務状況その他必要な事項とし、OECDガイドラインの別添1に示された記載項目と同様とする」とあります。そのOECDガイドライン別添1の大枠としては(多国籍企業グループの)(1)組織構造、(2)事業概要、(3)無形資産、(4)関連者間金融取引、及び(5)税務・財務ポジションとなります。大企業では企業グループ全体に関するこれらの記述が相当な量になりますので、グループの概要をマスターファイルとして共通化することにより、グループ全体で見た移転価格文書作成の合理化メリットがあると考えられます。

注意すべきは、日本で作成及び提出の必要がない連結売上高1,000億円未満の企業でも、海外の規制次第ではマスターファイル作成の必要が生じる可能性がある事です。例えば中国で昨年9月に発表された移転価格ガイドライン改正案では、マスターファイルの作成要件は関連者間有形資産取引額が年2億元(約36億円)超、その他取引が年4,000万元(約7億円)超となっていますので、連結売上高が1,000億円未満でも、中国拠点の関連者間取引額が上記を超えるとマスターファイルを作成する必要があると解釈されます。

(3)ローカルファイル

ローカルファイルに含まれる項目として大綱では、租税特別措置法施行規則第22条の10第1項各号に掲げる書類(事業概要、関連者間取引、機能リスク分析、最適な移転価格算定方法の選定、及び移転価格分析など)をベースとしつつ、OECDガイドライン改定案別添2に示された記載項目(組織構造・組織図、経営陣及び所在国、主要な競合他社、複数年度分析を行う場合はその理由、相手国で締結されたAPAその他ルーリングの写しなど)を追加するとしています。

ローカルファイルに係る同時文書化義務(法人税申告書提出期限までの作成義務)の免除要件として、大綱では国外関連者との前期の取引金額50億円未満且つ無形資産取引額3億円未満(各々受払合計)と規定されました。しかしながら推定課税等の罰則を免れる為の要件として、同時文書化義務のある場合は国税当局の要請後45日以内にローカルファイル提出とされたのに対し、同時文書化義務のない場合においても、国税当局の要請後60日以内にローカルファイルに相当する資料等を提出と規定されました。ローカルファイルに相当する資料等の定義は現状不明確な中、措置法施行規則第22条の10を頼りに作成するとなると、実質的にはローカルファイルに極めて近い移転価格文書となります。ローカルファイル自体に比べれば提出期限に+15日の猶予はあるものの、60日間で新規に実質的な移転価格文書を作成するのは通常困難です。従って、免除要件に該当する場合でもリスク評価を行い、追徴課税リスクの高い関連者間取引については、予め移転価格文書を作成しておく必要があると思われます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2016年2月号掲載記事より転載)

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