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2016年12月:米国財務省がIRS移転価格税務調査の問題点を指摘

米国財務省の税務行政監査部門は、2016年9月28日付で「移転価格案件の適切な評価に対する障害」という監査報告書を、内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)宛てに作成しました(一般公開は11月3日)。本報告書作成の背景として、経済グローバル化の進展に伴い国際取引が益々増加し、米国の税収確保の為移転価格税制執行の重要性が高まっていることなどが記されていますが、実際には、IRSの移転価格課税の多くが法廷に持ち込まれ、その内多くが敗訴しているという税務執行への懸念があるものと考えられます。以下、本報告書の概略を紹介します。

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1.監査方法

2015年5月〜2016年6月の間、IRSの主要3事務所において、職員5,991人に対しインタビュー、アンケート調査等を行った。

2.IRSの執行体制

IRSにおける移転価格税務調査は、主にLB&I(Large Business and International Division、大企業・国際部門)の傘下にあるTPP(Transfer Pricing Practice、移転価格部門)とIBC(International Business Compliance、国際事業コンプライアンス部門)が別々に行っている。TPPは移転価格調査専門で主に大企業に対して、IBCは国際税務調査の一環として移転価格調査も行っている。

3.問題点、提言及び回答等

(問題点1)移転価格調査ロードマップの不徹底:

Transfer Pricing Audit Roadmap(以下“ロードマップ”)は、IRSが2014年2月に発表した、税務調査官が移転価格税務調査を効率的に行う為のガイドライン。調査開始から終了までを(1)計画、(2)実施、(3)解決の3段階に大別し、各段階で行うべき作業及び目標期間を示している。しかし今回監査の結果、ロードマップを税務調査時に「時々使用した」と回答した職員が40%、「使用しなかった」と回答した職員が19%に上った。  

(提言1):IRS職員がロードマップに従って税務調査を行うべきであり、且つ従った事のチェックを品質レビュー項目に加えるべきである。

(IRSの回答) 提言に反対。(理由)ロードマップはチェックリストではなく、様々な移転価格案件に対し標準的に対応可能な様式でもない。

(提言2):納税者との意思疎通を図る為にはロードマップを理解してもらう必要がある為、IRSは調査開始時に納税者にロードマップのコピーを配布すべきである。

(IRSの回答)反対。提言1への回答と同様の理由により、ロードマップはコピー配布を含め使用を強制するのが難しい。

(問題点2)部門間の連携不足とスキルの不足:

IRSは2013年9月に、TPPとIBCが移転価格案件に関し効率的に協働・連携する為の覚書を発表したが、今回監査において「覚書が遵守されているか」との質問に対し、職員の46%が「わからない」、38%が「いいえ」と回答しており、覚書があまり守られていないことがわかった。特に覚書においては、TPPが全ての移転価格案件に連帯責任を負うと記されているにも関わらず、TPPはIBCが行っている調査の全容を把握出来ていない。また多くの職員が、移転価格の正確な執行の為に必要な最新のガイドラインの入手方法がわからないと回答しており、スキルアップが必要な状況である。

(提言3):TPPがIBC案件にアクセス出来る必要がある。

(IRSの回答)反対。

(提言4):覚書の遵守を品質レビュー項目に加えるべきである。

(IRSの回答)賛成。

(提言5):TPPとIBCの職員に対する移転価格の研修を必修化すべきである。

(IRSの回答)一部賛成。

(問題点3)定量的目標値による評価の必要性:

(提言6):IRSは、更正所得額、追徴税額など結果重視の戦略目標及び行動計画を含む包括的移転価格戦略を作成すべきである。

(IRSの回答)一部賛成。但し多くの企業が欠損状態の中、定量的数値での評価は難しい。

(問題点4)不服申立制度のフィードバック不足:

2012〜2014年に行われた移転価格課税においてIRS不服審査部門への申立が行われた案件全体では、最初の更正案提示額に対し、不服審査後の最終的な更正額は当初の3%まで減っている。これをみると、IRSは移転価格調査のアプローチを変えた方がよいと思われる。また今回監査の結果、更正金額が不服審査により減ったことを知らされたと回答した職員は僅か14%であった。不服申立に至った経緯等について職員が情報入手できれば、次回の効率的な調査に繋がる筈である。

(提言7):IRSは、不服審査を経た課税案件について事後的なレビューを行い、レビュー結果は研修で職員が共有し、今後の移転価格税務調査の正確性及び品質向上に役立てるべきである。

(IRSの回答)賛成。

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上記の通り本報告書の提言の一部にはIRSも反対しており、即座に全ての提言を実行できるほど実情は簡単ではないでしょうが、少なくともIRSが多くの内部的問題を抱えていることを明らかにし、且つ解決案を提示した点で本報告書は有意義であると思います。このような状況を公開する事自体、米国は未だ健全さを失っていないようです。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2016年12月号掲載記事より転載)

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