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2016年11月:中国の移転価格ガイドライン改正(2)APA

既に本月報2016年9月号で紹介の通り、中国では2016 年6月公表の第42号公告により、移転価格ガイドラインである「特別納税調整実施弁法(試行)」のうち文書化規定に係る部分が大幅に改正されましたが、この度、移転価格ガイドラインの改正第2弾として、事前確認(Advance Pricing Arrangement、以下“APA”)に関する上記弁法の規定についても大幅に改正する国家税務総局公告2016年第64号(以下“第64号公告”)が、2016年10月11日付で公表されました。

背景:中国におけるAPA運用の現状

APAは、関連者間取引の価格算定方法に関して企業と税務当局が事前に合意する事により、一定年度(通常3〜5年間)については移転価格税務調査を行わない事を目的とします。特に、関連者間取引の両当事国間で最終的に合意してもらう二国間APAは、両国における移転価格税務調査リスクを一定年度回避できる有効なリスク対策と言えます。但し中国ではAPA規則が2004年に制定されて以降の締結実績は極めて低調であり、2014年までの締結件数は113件、その内二国間APAは43件と、毎年100件前後が締結される日本や米国に比べ極めて少ない数にとどまっています。その最大の理由は税務当局における人材不足と言われていますが、一方で二国間の利害を調整して両国の合意につなげる二国間APAは、自国での高い利益を正当化したい中国当局にとって必ずしも歓迎すべきものではないことも理由のひとつでしょう。今までに締結してきた二国間APAは、当局としてその実績を誇示できるような、誰でも知っている巨大多国籍企業の案件に限られているのが現状です。

以下の改正内容をご覧の通り、今般のAPA規則改正の目的は、残念ながらそのような現状を打破し、より多くの企業にAPAを利用してもらう為ではなく、APA正式申請のハードルを上げ、企業のAPA申請を更に躊躇させるものになっています。

改正の主な内容

正式申請までの対応を強化:

従来の弁法では、APAのプロセスは(1)事前相談、(2)正式申請、(3)審査・評価、(4)協議、(5)締結、(6)実施・監視の6段階から成るとされました。それに対し第64号公告では、(1)事前相談、(2)APA意向書提出、(3)分析・評価、(4)正式申請、(5)協議及び締結、(6)実施・監視の6段階に変わりました。つまり、従来はAPA申請を検討する企業はAPA意向書を税務当局に提出した上で事前相談を行いましたが、今後は事前相談を行った後に当局がAPA申請可能と認め通知した場合のみ、APA意向書を企業が提出できます。しかも意向書提出に当たっては、APA申請書のドラフトに相当する詳細な資料を当局に提出しなければならず、当局は今まで正式申請後に行っていたそれら資料の評価を正式申請前に行う事となります。従来も中国のAPAは事前相談重視型と言われ、事前相談段階で当局の意にそぐわない相当数の案件が申請拒否されていたと言われていますが、今後はさらにその傾向を強化し、日本を含め他国では正式申請後に行われる分析評価を正式申請前に行ってしまおうという事ですので、当局のAPAに対する姿勢が更に慎重になったといえます。  

中国固有の利益創出要因を強調:

第64号公告では、低い労働コスト、市場規模、消費者購買力など第42号公告でも強調された中国固有の利益創出要因を考慮することが、以下の通りAPA申請の各段階において必要となります。

  • 事前相談時に、中国又は地域固有の利益創出要因があるか否かを報告する必要がある。
  • 事前相談の結果APA意向書提出を認められた場合、添付する申請書ドラフトには、当該固有の利益創出要因も考慮したバリューチェーン(又はサプライチェーン)分析を含める必要がある。
  • 税務当局は申請書ドラフトにおいて、固有の利益創出要因に対し十分な利益が中国法人に配賦されているかについて分析・評価する。
  • 税務当局がAPA申請を受理する際、固有の利益創出要因に対し十分な利益が中国法人に配賦されている案件を優先して受理する。
  • 監視段階における四分位範囲の強調:

    締結後のAPA期間内(通常3〜5年)における監視指標として四分位範囲(全統計サンプルの内、中位値を中心とする50%の範囲)を使用することが明確化され、関連者間取引価格又は中国法人の利益率が四分位範囲を外れた年度は、中位値まで調整を行う事が明記されました。また、APAの満了時までに加重平均ベースで中位値を下回った場合は、(四分位範囲に収まっていても)税務当局は当該APAの更新を行わないことが明記されました。比較対象データの中位値に達しなくても四分位範囲に収まっていれば調整が行われないというのが他国におけるAPAのメリットの一つであり、中国も従来はそれに沿った規定でしたが、今般改正により、そのメリットが失われました。

    申請可能な関連者間取引額基準:

    従来の「年間40百万元以上」から、「直近3年連続で40百万元以上」と、やや厳しくなりました。

    以上を総合すると、中国でのAPA申請に関する実質的ハードルが大幅に引き上げられたといえます。大多数の日系企業にとって、日中二国間APAを活用できる機会は当面なさそうです。

    (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

    (JAS月報2016年11月号掲載記事より転載)

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