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ライブラリ(国際税務関連記事)


2015年12月:国際課税で失態の続く税務当局(米国、インド)

1.米国

先月号でも紹介した、世界的な租税回避防止プロジェクトであるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトですが、元々BEPSプロジェクトが発足した主な理由の一つは、米国の多国籍企業が米国のみならず欧州でも多額の節税を行っている事に欧州主要国が激怒した事です。その、BEPS発足の元凶とも言える米国において、税務当局IRS(Internal Revenue Service)の弱体化が最近目につきます。

IRSが最近行ってきたコストシェアリング案件をはじめとする巨額の移転価格課税の多くが裁判で否決されており、その他の多くの訴訟案件も結論が出るのに時間がかかっています。特にAltera社のケースでは、2003年にストックオプション費用も分担対象とした米国移転価格税制の改正自体が無効と判断されてしまい、審議中の類似の課税案件にも影響を及ぼすと思われます。それら課税案件が軒並み裁判所で否決されると、文字通り移転価格税制におけるIRSのメンツは失墜するでしょう。

IRSは2011年より、大規模事業&国際部門(Large Business & International division、“LB&I”)に専任の移転価格ディレクターを設置し、APAと相互協議部門を統合するなど一連の“移転価格組織改革”を行ってきましたが、3年後の2014年には当初改革を立ち上げた関係者が軒並み辞任してしまい、改革の失敗を印象付けてしまいました。米国の深刻な財政赤字を背景にIRS全体の予算も大幅にカットされている中、国際部門を司るLB&Iの人数は2011年の7,000人から現在5,400人へと2割以上減少してしまい、今後も増える見込みがないようです。人手不足のせいか、最近はMicrosoft社のケースをはじめ、IRS自身が移転価格分析を行わず、コンサル会社に分析を丸投げしている例も露見しています。そのような状況で、BEPS報告書を受けたグローバルな租税回避防止の強化に米国は取り組めるのか、危ぶまれています。

今年11月12日、また新たな改革が発表されました。今度は、LB&Iの国際事業コンプライアンス部門からの人材異動により、移転価格部門の人数を倍増させ、移転価格税務調査に資源を集中するというものですが、要するにIRS内部でのパイの奪い合いであり、これまでの経緯を考えると効果についてはあまり期待出来ないようにも思えます。但し、IRSが移転価格を引続き最重要視している事は示されていますし、米国の日系企業が同時文書化等のコンプライアンス面で手を抜いていいという事では決してありません。

2.インド

外資系企業に対する数多くの理不尽な課税が横行しているインドですが、それら課税処分の多くが裁判所で否認されています。裁判制度が機能している事自体は朗報ではあるものの、政府・税務当局の無茶苦茶な執行のために、裁判など係争に費やす時間と費用は外資企業にとっては大きな負担となっています。

中でもVodafone(世界最大の携帯電話会社)は最も大きな被害を受けた会社ですが、以下3件の各々巨額の課税を命じられた事案全てにおいて裁判ではVodafoneが勝訴しました。

@インド子会社が国外の関連会社から出資を受けた際、関連会社からの払込価格が過少との理由でUS$490百万相当の移転価格課税を受けた件:Vodafoneは、出資については収益取引ではなく資本取引のため非課税であり、移転価格課税の適用は間違いであると主張し、2013年2月ムンバイ高等裁判所に提訴、2014年10月に勝訴しました。税務当局は最高裁に上告せず、Vodafoneの勝訴が確定しました(同様の取引で課税された石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルも2014年11月に勝訴しました)。

Aコールセンター事業のインド国内での売却が国際取引と見なされ移転価格税制を適用された件をはじめとする、計US$13億の課税事案:今年10月にムンバイ高裁でVodafoneが勝訴、当局は上告するか検討中です。

Bインドの携帯電話会社を香港企業からVodafoneオランダ関連会社が買収したという外−外取引にもかかわらずインド国内でのキャピタルゲイン課税計US$22億相当(ペナルティ含め)を命じられた件:これはインド最高裁でVodafoneが勝訴したのですが、その後政府が外−外取引でもキャピタルゲイン課税を課す税制改正を1962年に遡って行い、税務当局の課税権が復活するという、司法権が踏みにじられる事態となりました。現在はオランダで仲裁手続きが行われていますが、地元メディアによると今年11月18日に政府が、元本金額分の追徴税額(US$12億相当)を支払えばペナルティ等付加税の全額を免除するという和解案を提示したようです。何せ、この仲裁で負ければ3件の課税処分で命じた計約US$40億の追徴課税処分がゼロになってしまう為、税務当局としては少しでも課税を行い、メンツを完全に潰さないでほしいといったところでしょうか。

日系企業では最近、三菱商事のインド法人が、サポート業務へのベリー比適用を当局に否認され移転価格課税を受けましたが、これも2014年11月、裁判で企業側が勝訴しました。


(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2015年12月号掲載記事より転載)

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