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2015年11月:BEPSプロジェクトが最終報告書を公表

2015年10月5日付で経済協力開発機構(OECD)は、G20との共同で行うBEPS (Base Erosion and Profit Shifting、“税源浸食と所得の移転”の意)対策プロジェクトの総括として、最終報告書パッケージを公表しました。2013年7月に15項目の行動計画を公表(2013年8月号ご参照)してから約2年強という短い期間でそれら15項目全ての最終報告書が揃ったことになり、アグレッシブな租税回避スキームを撲滅したい各国の強い意欲がうかがえます。

最終報告書パッケージは合計1,900ページ超という膨大な量ですが、本稿ではその中でも特に重要性が高く、最終報告書の随所に織込まれ、日系企業にも関連すると思われる移転価格関連の2つのテーマについて紹介します。

                        

1.経済活動の実態を重視

BEPSプロジェクトの中で最大のテーマの一つが、経済活動の実態に応じた課税です。これは、裏を返せば経済実態に沿わない所得の配分が横行している事への懸念を意味します。例えば、米系を中心とする多くの多国籍企業は、無税又は低税率国の拠点に研究開発活動等の成果であるノウハウ、特許、商標等の“価値ある無形資産”を所有させ、その対価としてそれら拠点で高い利益率を計上しています。移転価格税制において、そのような価値ある無形資産を所有する拠点が高い利益率を獲得する事は一見理にかなっています。しかしながら問題なのは、それら価値ある無形資産を実際に作った場所(例:米国)と現在管理している場所(例:バミューダ)が違う事であり、形式的な契約形態と経済実態に乖離があるというのです。最終報告書においても、以下の通り経済活動の実態に則して税務執行を行うべき事が随所に強調されています。

・ 関連会社間で実際に行われている事業活動とその経済実態を反映しない契約内容を基に移転価格設定を行ってはならない。

・ 契約書上の(関連者間)リスク分担は、それが実際の関連当事者間意思決定の度合いに基づいて分担されている場合のみ尊重される。

・ 無形資産の開発から生じる利益の配分は、関連会社の法的な無形資産所有権のみにより決定されるものではない。

・ 無形資産の開発、改良、維持、保護及び活用という重要な価値を生み出す機能を実際に有する拠点が適切な報酬を得る事が出来る。

2.Cash Boxに帰属する利益を限定

これまでは、開発活動自体を行っておらず実際に事業リスクを負っているといえない低税率国の拠点がコストシェアリング契約などによる研究開発費用の分担、過去のノウハウ対価の清算(buy-in)などの資金負担により無形資産の所有者となり、多くの利益を保有する事が事実上可能でした。それらの低税率国における資金提供拠点をBEPSプロジェクトではCash Boxと命名し、最終報告書では以下の通りCash Boxへの利益の帰属を大幅に限定しています。

・ 契約上リスクを負担している、又は資金を拠出していると言うだけの理由で不当に利益を計上すべきではない。

・ 資金提供のみを行い事業上の機能を有しない拠点はリスクフリー収益率(国債利子率など)以上を得る事は出来ない。つまり、実体のないCash Boxは超過収益を得る事は出来ない。

・ 資金提供を行う拠点が関連する金融リスクのコントロールを行わない場合、リスクフリー収益率以上を得る事は出来ない。

・ 資金提供のみならず関連する金融リスクも負うが、無形資産に関連する機能を有しない拠点は、当該金融リスクを織り込んだ調整後収益率のみを得ることが出来る。

今後の見通し

その他、OECDが最重点事項として取組んだ国別報告書の自動的情報交換制度(既に2014年10月号及び2015年3月号にて紹介済み、最終報告書でも内容に変化なし)なども含む本件最終報告書パッケージは、既に10月8日にペルーで開かれたG20財務相会議でも承認され、今後は今月(11月)中旬にトルコで行われるG20首脳会議での正式承認を経て、関係各国の税制への反映が見込まれます。OECDは本報告書によりCash Box拠点による節税は激減すると自信を持っているようですが、一番の焦点は、圧倒的にCash Box拠点を有する企業の数が多い米国の移転価格税制にいかに反映されるかでしょう。但し、経済活動の実態反映やCash Boxに関するOECDのガイドラインは、概念としては理解できるものの具体性に乏しいため、米国を始め各国がどのように導入、運用していくのか、未だ明らかではありません。具体性に乏しい事の逆手を取った恣意的な運用が税務当局により行われないことを願います。

またOECD加盟国の日本でも当然本件最終報告書を受けた税制改正が行われる筈ですので、移転価格税務調査の厳格化が予想されます。特に本最終報告書に抵触するようなタックス・プランニングを行っている会社は、スキームの見直し等を検討する必要があるかもしれません。


(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2015年11月号掲載記事より転載)

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