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ライブラリ(国際税務関連記事)


2015年10月:Vanguardに対する内部告発と巨額の課税リスク

バンガード(Vangurad)といえば、米国では投資信託業界でシェア約20%を占め、運用資産3兆ドル(360兆円)を超える世界最大の投資信託会社として誰もが知っています。そのバンガード社において2008年より社内弁護士として勤務していたDavid Danon氏は、在任中に同社の移転価格問題に気付き経営陣に指摘したものの聞き容れられず、内部告発訴訟を2013年5月NY州の裁判所に提起しました(その後程なく解雇される)。

バンガードの概要と告発の内容

ペンシルヴァニア州に本社を置くVanguard Group Inc.(以下“VGI”)は、150以上のファンド(殆どは免税若しくは税優遇を受けている)により計100%所有されています。VGIは各ファンドに対し投資顧問サービス(investment advisory and management service)を提供しますが、その対価としてかかった費用のみをファンドに請求しています。これはバンガード創業者であるJohn Bogle氏独自の発想であり、これによりVGIは外部株主に配当を払う必要なく、ファンドの投資家の利益のためだけに実費ベースでのファンド運用を可能とし、競合他社に比べて圧倒的に低い手数料率を可能にしたと言われています。VGIとファンドは持株関係のみならず、VGIの取締役とファンドのtrustee(管財人)が同一であるという実質支配関係から、両者間の取引は関連者間取引に該当すると考えられますが、VGIは関連ファンドに費用のみ請求する事について創業時の1975年にSEC(米国証券取引委員会)から認可を得ています。

それに対し告発者であるDanon氏は、SECの認可はあくまで証券取引法上のものであり税法上は有効ではなく、VGIは移転価格税制の独立企業間原則に基づき費用に利益を上乗せしてファンドにフィーを請求しなければならないところ、費用のみ請求し、その分免税及び税優遇体であるファンドが多くの利益を得ているとしました。よって同氏は、本取引は違法なタックスシェルターに相当し、VGIは過去10年間でIRSに10億ドル(1,200億円相当)、NY州に20百万ドル(24億円相当)の追加納税義務があると主張しました。

これに対しVGIは、移転価格課税は税務当局のみ行えるものでありDanon氏に訴える権利はない事、また同氏は従業員としての立場を利用し会社の資料を盗み出すという違法行為を行っている事から、同訴訟の棄却を請求しています。

なお、IRSの内部告発制度によると、告発者のDanon氏は課税が行われた場合、追徴税額の最大30%を受取る権利があるそうです。

移転価格専門家の報告書

そのような中、Danon氏側から依頼を受けた移転価格専門家のReuven Avi-Yonah氏が、2015年9月21日付けでIRS及びSEC宛てにレポートを提出しました。Avi-Yonah氏はミシガン大学教授で、実務家というよりも移転価格税制の研究で有名な学者です。

レポートの内容は以下の通りです:

財務省規則1.482-9では、関連者間サービス取引の移転価格算定方法として、一定要件に該当する場合のみ、利益を乗せず費用のみを請求するサービス・コスト法(“SCM”)が適用できる。一定要件とは(1) 比較対象企業における対費用マークアップ率の中位値が7%以下、(2)IRSが指定する「特定のサービス」に該当しない、(3)当該サービスは当該企業グループにとって重要ではない、などを指すが、本サービスについては(1)比較対象企業のマークアップ率は7%を超えている、(2)金融業は「特定のサービス」に該当する、(3)投資顧問サービスはバンガードグループにおいて重要なサービスである、とSCM適用要件に全く該当せず適用できない。

そうなると、SCM以外の最適な移転価格算定方法を選択する必要があるが、投資信託の手数料率には法律上開示義務があるため、独立価格基準法(CUP法)の適用が可能である。2007〜2014年における全投資信託の平均手数料率は0.71%〜0.82%の範囲にある一方、同じ期間におけるVGIが関連ファンドから徴収した手数料率は0.18%〜0.21%と大幅に下回っている。よってIRSがもし税務調査を行えば、その差額分を所得更正する事による追徴税額、及び賦課されるペナルティと延滞税を合計した、8年間計346億ドル(4兆1,500億円相当)を追徴課税する事ができる。

コメント

Avi-Yonah氏のレポートの通りIRSの課税が行われれば、想像を遥かに超える史上最大の移転価格課税となります。しかしながら同レポートを拝見したところ、SCMを含む移転価格税制とその適用についての理解は的確と思われるものの、税額算定の根拠となる分析内容はかなり大まかであり、本当に移転価格課税を行うためにはより詳細なCUP法分析等の移転価格分析が必要と思われます。そもそも、バンガードのS&P500等インデックスファンドが低い手数料率で人気となり大いに売れた事も米国株の持続的購買と株価の長期的上昇の一因とさえ言われている程ですから、そのビジネスモデルを根幹から崩すような課税が行われれば、バンガード社のみならず米国金融・経済に甚大な影響を及ぼす可能性もあります。IRSとしても非常に難しい判断を迫られるのではないでしょうか。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

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