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ライブラリ(国際税務関連記事)


2015年9月:税制の改正を無効とした米国租税裁判所

1.背景:

米国ではIT、製薬などの高収益企業が、低税率国の子会社に研究開発費などの費用を分担させる代わりに利益をそれら子会社に移転し節税をはかる目的で、グループ内でコストシェアリング契約(Cost Sharing Agreement、以下“CSA”)を多用しています。それに対しIRS(内国歳入庁)はCSAによる米国外への利益移転防止の為様々な手を打ってきました。その一つが、ストックオプション報酬(Stock Based Compensation、以下“SBC”)にかかる費用(=従業員の権利行使時に発生する市場株価と権利行使価格の差)についても米国外関連会社への分担を義務付けた事です。そのようなSBC費用をCSAの分担対象に含める事については明確な規則が無かったところ、IRSはCSAを行っている企業に対しSBCを費用分担対象に含める更正課税を行いました。その代表的な例が半導体開発企業Xilinx社で、同社は1996−1998年度に計US$19.5百万のSBC費用をアイルランド子会社に分担させるべきとの更正処分を受けました。Xilinxはこれを不服として租税裁判所に提訴し、第三者間のCSAではSBC費用は分担されていないという多数の証拠を提出しました。この間、IRSは2003年にSBC費用も分担させる事を明確化したCSA規則改正(§1.482-7(d)(2))を行いました。その後2005年8月に租税裁判所は、SBC費用は独立企業間では計上されていないことから独立企業間原則に反するというXilinxの主張を支持した判決を下しました。控訴裁判所では、2009年5月に一度IRSが逆転勝訴したものの、その後の産業界からの猛烈な反発を受けてか、2010年3月に租税裁判所を支持する再判決を言い渡し、結局IRSは敗訴しました。但しXilinxのケースはCSA規則改正前の年度が対象であり、2003年以降については規則が改正されてしまっている為、多くの米企業はCSAにおいてSBC費用を引続き米国外関連会社に分担させています。

2.Alteraのケース:

しかし、Xilinxと同業の米半導体開発企業Altera社は、第三者間で行なわれていないSBC費用の分担は困難として、ケイマン諸島の子会社との間でCSAを行っていたにもかかわらず、同子会社にSBC費用を分担させませんでした。当然ながらIRSは税務調査でこれを指摘し、2004〜2007年度にUS$約80百万の所得更正をAlteraに対して行いました。Alteraは、2003年の改正CSA規則自体が、第三者間でSBC費用を分担していないという取引実態を無視したものであり独立企業間原則に反する為無効であるとの訴訟を2012年に提起しました。

この程2015年7月27日付で、米国租税裁判所はAlteraの主張を全面的に認め、2003年改正の§1.482-7(d)(2)を無効とする判断(opinion)を、本件に関与した判事15人の全員一致で言い渡しました。理由としては基本的にはXilinx判決を引き継いでおり、IRSは「第三者間ではこのように行われるであろう」という理論のみに基づいた規則改正を行ったとしており、そのような改正は、第三者間における実態を十分に反映して法制定しなければならないとする米国行政手続法に反するとしています。その他、SBC費用はCSAの費用分担対象とすべき高付加価値な無形資産を形成する費用として関連付ける事は難しいとも指摘しています。

3.本訴訟の影響:

その他の争点を含む本訴訟の正式な判決を待つ必要はあるものの、本件判断は今後米国移転価格税制に大きな影響を及ぼしそうです。このままいけば、IRSは§1.482-7(d)(2)を廃止しSBC費用分担を不要とするか、控訴するしかありません。しかしXilinxの控訴審でも敗訴している上に、租税裁判では判事全員一致で無効という強力な判断が下されていることから、控訴審で覆すのは難しいのではないかと思われます。そうなると、様子見を決め込んでいた多くの企業もSBC費用の分担を止め(税率の高い)米国本社で損金算入をすることになり、米国税収減につながるでしょう。更に、この影響はSBC費用にとどまらないと予想されています。2011年に最終化された改正CSA規則の多くの条項は、第三者間の実態ではなく「CSAはこうあるべき」といった理論のみをベースに制定されており、難解で且つ米国に過度の所得を配分するものとして多くの批判を受けています。これらについても今後、米国行政手続法に反するとして訴訟の対象になる可能性もあります。最近CSA関連をはじめ多くの移転価格税務訴訟で敗れているIRSの権威を更に大きく失墜させるに十分な本判断ですが、利益の国外移転をおそれるあまり過度に厳格な執行を行ってきたツケが回ってきたともいえます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2015年9月号掲載記事より転載)

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