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2015年8月:大手製薬会社が豪州で租税回避(?)

「出る杭は打たれる」という言葉がありますが、税の世界でも、儲けている会社ほど当局に狙われる傾向があります。移転価格税制においても、利益率の高い製薬会社に対して行われる更正課税は他に類を見ない巨額となり、一企業に対する追徴税額の世界記録(米国IRSが英国Glaxo SmithKlineの子会社に課した86億ドル(1兆円強))、及び日本記録(大阪国税局が武田薬品工業に課した571億円)は共に製薬会社です。(但しGlaxoは2006年にIRSと和解し支払額は31億ドルに減少、武田は異議申立及び審査請求の結果、追徴処分は2013年に全て取消されました。)

最近はオーストラリアが、製薬会社が同国において租税回避を行っているとの疑いを強めており、2015年7月1日、同国の上院委員会において世界の大手製薬会社9社の各豪州子会社の経営者に対する公聴会が行われました。席上、議員は各子会社に対し2014年度の売上高及び納税額を質問し、各社が払っている法人税額が売上高に対して如何に少ないかを追求しようと試みました。

(表1:2014年の豪州子会社売上高及び税額)

(注1):Novartis及びSanofiは公聴会で2014年度の豪州子会社データが十分に確認できなかった。

(注2):1AU$=95円(2014年平均)で円換算

上記表1は、本公聴会で明らかになった各子会社の2014年度売上高及び法人税額です。一見税額が低く見えますし、議事録を読むと一部の議員は「Glaxoは売上高の1%未満しか法人税を払っていない」などと批判しています。しかし、法人税は売上ではなく税前利益に対して払うので、この批判は妥当ではありません。正確には、各社の税前利益を算出の上、売上高利益率が妥当な水準にあるかを検証する必要があります。

(表2:2014年利益率の比較)

(注1)豪州子会社の税前利益額は、一部企業は公聴会にて確認、それ以外は豪州の法人税実効税率30%で税額から推定算出。

(注2)グループ全体の数字は、各社の開示資料より2014年の税前利益を売上高で除して算出。

上記の表2を見る上で重要なのは、各7社とも豪州での主な事業は薬品の卸売販売であり、研究開発及び製造は殆ど行っていないということです。殆どの製造業界において利益の根源は研究開発機能及び製造機能にあると考えられますが、特に製薬業界の場合、新薬の開発から臨床試験等を経て管轄当局の承認を経るまでの開発プロセスに莫大な時間とコストを要し、他業界に比べ高い利益を生み出す根源は研究開発機能に帰属するといっても過言ではありません。よって、グループ全体で高い利益率をあげており、販売を主とする豪州子会社の利益率がそれより低くても何ら不自然ではありません。そもそも、各社の利益率は一部の例外はあるものの概して5%前後と、卸売販売会社としては妥当な水準ではないかと推測されます。更に、約半数の企業は既に豪州税務当局ATOとの間で事前確認(APA)を締結しており、追徴課税が行われる可能性はないという事になります。これらを勘案すると、今回の上院公聴会は徒労に終わる可能性が高いと考えます。

但し、さすが世界のトップ企業、各社とも節税はしっかり行っているようです。例えばPfizerは低税率国アイルランドの製造拠点が大半の薬品を豪州子会社に販売しており、またSanofiはドイツの製造拠点でつくった薬品をシンガポール拠点経由で豪州子会社に販売しています。本公聴会の議事録(64ページ)は、このように世界の製薬会社の税務戦略などもうかがい知ることができるので、製薬業界に関わる方もしくは同業界を研究している方は一読をお勧めします。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2015年8月号掲載記事より転載)

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