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2015年6月:タイが移転価格税法の草案を発表

昨年2014年5月にインラック首相が失職して以来続いていた戒厳令がこの4月に解除されたとはいえ、いまだに政治的緊張が続くタイ。2014年通年の実質GDP成長率は0.7%と他の東南アジア諸国を大きく下回り、また失業率は低い反面人手不足の問題は深刻であり新たな企業進出の阻害要因となっているなど、経済面でも難しい状況にあるように思えます。投資誘致と経済成長を促進するため、タイの法人税率は現在20%まで下がっていますが、上述した政治、経済、人手不足の問題等もあってか、近年日系企業が新たにタイに進出するという話はあまり聞きません。

日系企業を含む外資企業の進出が早くから行われたタイでは東南アジアで最も早く2002年に移転価格ガイドラインを発行し、外資系企業を主なターゲットに税務執行を行ってきました。但し、これまでの移転価格規則はあくまでガイドラインであり法制化が不十分で、その具体的な運用は、税務当局にあたる歳入局の通達に拠っていました。したがって、税務調査は調査官の裁量の余地が大きく、不公平で透明性に欠けるという不満が企業側から聞かれていました。

これに対し、タイの内閣は5月7日付で移転価格税法の草案を承認しました。発表された草案の概要は以下の通りです:

1. 税務調査官は、独立企業間取引の水準から乖離した価格で行われている関連者間取引(間接的関連者も含む)を更正する権利を有する。

2. 移転価格課税を受け二重課税状態になった場合、当該二重課税回避のための法人税還付(対応的調整)が可能になる。申請期限は法人税申告期限より3年以内、または更正通知受領後60日以内。

3. 新・移転価格規則の対象となる法人は、下記情報を含む文書を、決算期末日から150日以内に税務当局に提出しなければならない:

  • 資本、経営、管理面における他社との直接・間接の支配・被支配関係
  • 関連会社との間の受取及び支払取引の価格算定方法
  • 上記に関する文書の提出を怠った場合または不正確な情報を提出した場合、最大40万バーツの課徴金が課せられる。

    所 見

    1.については移転価格課税の定義を説明しているもので目新しくはありませんが、税法で定める事により移転価格課税を正式に合法化する意図があるものと思われます。

    2.については、タイでは対応的調整の規定がこれまで国内税法にありませんでした。本改正により、例えば日本とタイの相互協議の結果タイ側での還付が可能となり、二重課税解消の可能性が広がることが期待されます。

    3.については、上述の内容からして、関連者間取引が独立企業間原則に遵守している事を分析により証する、いわゆる移転価格文書(Transfer Pricing Documentation)ではなく、法人税申告時に提出する関連者間取引の開示資料のみを示すものと思われます。現状、タイでは移転価格文書を申告時までに作成する義務(=同時文書化義務)は正式に定められていません。中国、インドネシアなど同時文書化義務を課し、且つ非常にアグレッシブに税務執行を行っている国々に比べれば比較的穏健といえます。しかしながら昨年のOECD移転価格ガイドライン改正により、同時文書化義務を課すことが推奨されるようになった為、OECD加盟国のみならず、日本など加盟国との関連者間取引が多いタイのような非加盟国でも同時文書化義務を今後実施する可能性があります。今回の法制化に合わせて移転価格ガイドラインの改正・詳細化も後日行われるとの事ですので、タイの今後の動向には十分な注意が必要です。

    (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

    (JAS月報2015年6月号掲載記事より転載)

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