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2014年5月:OECD移転価格ガイドライン(文書化)改定案の問題点

前月号では、経済協力開発機構(以下“OECD”)が今年1月30日に発表した移転価格ガイドライン第5章「文書化」改定案の概要を説明しましたが、今回は本改正案が提起する疑問点、及びその他の問題点等について、筆者の私見を交えて説明します。

1.OECD自身が提起する問題点

(1)マスターファイルを事業部毎に作成すべきか?

前回も説明の通り、本改定案が提案するマスターファイル・アプローチは、移転価格文書をマスターファイル及びローカルファイルの二層に分ける方法です。その内マスターファイルは各関連者に共通する企業グループ全体の基本情報で、本社が作成する事によりグループ全体としての文書作成コスト削減につながる事が期待されています。

但し、例えばGEやソニーのように一つの企業グループが複数の事業を有する場合、マスターファイルを事業分野毎に作成すべきか、企業単位で作成すべきかについてOECDはコメントを求めています。

私見としては、事業部毎に海外展開しており、各事業部間での取引が殆どない(=独立性が高い)場合は、事業部毎にマスターファイルを作成すべき(他事業部の情報は管理上混乱を招く)と思います。但しマスターファイルの増加は作成コスト上昇を伴いますので、中小企業の場合には一企業で一つのマスターファイル作成が許容されるべきと考えます。

(2)CbCレポートの作成方法

前回説明の通り、改定案ではグループ全社の関連者間取引額、損益、納税額等の開示情報をリスト化したCountry-by-Country (以下“CbC”)レポートをグループ本社が作成し、マスターファイルに添付する必要があるとしています。具体的な作成方法ですが、本改定案では、各関連者が自身の情報を本社に送る形で作成される、いわゆる“ボトムアップ”アプローチを前提としています。但しボトムアップアプローチでは、一国に複数の関連者が存在する場合、各国の損益情報は各関連者の単純合計となり、関連者間の国内取引を消去した国毎の連結損益を把握できません。そのような中本改定案では、各国の連結損益を本社の主導で算出する、いわゆる“トップダウン”アプローチを採用した場合に要するシステム構築等のコンプライアンスコストが企業にとって著しい追加負担となるかについてコメントを求めています。

私見ですが、CbCレポートはあくまで移転価格文書の添付資料として要求されているところ、移転価格税制は各関連者を独立企業とみなして関連者間取引価格を算定するものであり、国毎の連結損益までは必要ないことから、税務当局の興味本位で納税者に不要な負担を強いるべきではないと考えます。その意味では、現行案に含まれている各社の給与総額、納付源泉税額なども移転価格税制の観点から必要とは思えず、削除されるべきと考えます。

(3)税務当局によるマスターファイルの入手方法

本改定案では、世界的に一貫してマスターファイル・アプローチを実施するため、各国の移転価格文書化規則はマスターファイルを文書に含む事を要求すべきとしています。そうすれば、税務当局は自国の企業に移転価格文書の提出を要請すればマスターファイル及びCbCレポートの閲覧が出来るという訳です。但し本改定案では、規則上移転価格文書の迅速な提出が見込めない国もあり、そのような場合には租税条約上の情報交換規定を利用して相手国から文書を入手することも可能であるものの、そのような方法の妥当性につきコメントを求めています。

私見としては、移転価格文書のように極めて守秘性が高い情報は、各国が自らの法令上責任を持って入手すべきであり、租税条約の情報交換規定上許容される類の情報ではないと考えます。

2.その他の問題点

(1)独立企業間原則からの乖離

CbCレポートで要求されている情報から、各関連者間における給与支払額、人数、資産等の比率が損益に比例しているかが把握できます。寄与度利益分割法に近い考え方ではあるものの、比較可能な第三者間取引価格に則するべしとする独立企業間原則が軽視されるリスクがあると懸念されています。

(2)マスターファイル自体の有効性

本改定案ではマスターファイル・アプローチが多国籍企業グループの移転価格文書化作業を簡素化するものとして規定されたものの、実際には国毎に異なる文書化の要求に対応するための個別修正が必要と思われ、それほどのコスト削減が見込めないという懸念もあります。やはり、OECDガイドラインと、各国、特に中国などの非OECD加盟国や加盟国ながら批判的な米国などの文書化規則をいかに擦り合わせることができるかが、マスターファイル・アプローチ成功のカギを握っていると思われます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2014年5月号掲載記事より転載)

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