新着情報(2021年4月1日):米国IRSが2020年度APAレポートを発表
米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2021年3月23日付で、2020年度のAPAの状況をまとめたレポート(Announcement and Report concerning Advance Pricing Agreements、以下“APAレポート”)を発表しました。
APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。米国では1991年から行われていますが、IRSによるAPAの年次報告書は2000年以降毎年発表されています。ちなみに、APAが世界で初めて制度化されたのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2020年度APAレポートの概要は以下の通りです:
1.申請件数
2020年度のAPA申請件数は121件と、2019年度と全く同じ数字でした。昨年の殆どはコロナ禍で経済活動が大きく制限された中、前年と同じ数字であれば上々と言えるかもしれません。しかし2019年度の件数はAPA申請フィーの急騰により2018年度の203件から大幅に減少(-40%)した数字ですので、引続き申請件数の低迷が続いているともいえます。
二国間APA申請件数の相手国で最も多いのは相変わらず日本(41%)、次いでインド(11%)、カナダ(10%)の順となっており、米国で申請された二国間APAの62%をこの3ヵ国向けが占めています。但し日本案件の申請の多くが新規ではなく更新(renewal)案件と思われます。
2.締結件数
(1)全般
2020年度のAPA締結件数は127件と、2019年度の120件に比べて7件増加しました。米国はCOVID-19の感染者数が世界一であり最大の被害者といえますが、それにもかかわらずAPAを担当するIRS APMA部門(Advance Pricing and Mutual Agreement Program、APA及び相互協議部門)は、ほぼフルに働いていたのでしょうか。但し、全締結件数の内更新(renewal)件数は75件と、全締結件数の約6割が比較的処理が容易な既存APAの更新であるという状況はここ数年変わっていません。
(2)二国間APA締結件数の国別内訳
2020年度APA締結のうち108件(85%)は二国間以上のAPA、残る19件(15%)が米国のみAPAとなっています。二国間以上APAの相手国としては、日本が変わらずトップであり、全体に占める比率は49%→52%と更に増えました。全二国間APA処理の半分以上が日本案件であり、米国のAPAにおける日本への依存度が未だ非常に大きい事がわかります。但し日本案件の大部分は更新案件(あるいは米国APA申請フィー値上げ前の駆込み案件)と推測されます。以下、2位インド(11%)、3位カナダ(8%)となっており、2016年にAPAが解禁されたインドが処理件数でも上位にあがって来ました。
(3)締結対象取引の内容
例年の傾向通り、2020年度締結件数の内、米国親会社と米国外子会社との取引に係る案件は全体の27%にとどまり、その他は基本的に米国外の企業による取引と考えられ、特に締結された日米間APAの多くは日系企業による取引と思われます。
3.平均処理期間
2020年度の全締結案件における平均処理期間は38.5ヵ月と、2018年度の40.0ヵ月から1.5ヵ月短縮されました。但しその内訳をみると、更新案件の平均処理期間が36.5→32.8ヵ月と短縮されたのに対し、新規案件処理期間は45.0→48.9ヵ月と増加しました。これは、新規案件に多く含まれると思われるインド案件の処理が難航している可能性が考えられます。
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いずれにせよ、COVID-19の感染拡大が長期化しており、企業活動への制約が続く中、$113,500(中小企業でも$54,000)と極めて高くなった米国APA申請フィー、及び移転価格専門家に支払う高額なコンサルティング・フィーを考慮すると、移転価格文書化と違い税法上の義務ではない米国APAの申請については、費用対効果を事前に十分に検証することが必要でしょう。
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