2025年1月:海外取引に関する日本の税務調査の状況(令和5事務年度)

国税庁は2024年11月28日、「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」を発表しました。

令和5事務年度(2023年7月~2024年6月)は、新型コロナウィルス感染に伴う社会的制限緩和の流れを受けて、法人税・消費税全体の実地調査件数が大幅に増えた前事務年度の62千件から5%減の59千件となりました。そのような中、国際課税の状況については以下の通りです。

1.海外取引に関する調査事績

(1)海外取引法人等に係る実地調査の状況

海外取引全般に係る実地調査件数は、前事務年度の10,394件から10,451件へと若干増加しました。それに伴い、非違があった件数も2,422件→2,437件へと同じく微増となった一方、申告漏れ所得金額については2,259億円→2,870億円へと27%増加しました。1件当たり申告漏れ所得金額は、前事務年度の0.9億円から1.2億円へと増加しました。

(2)外国子会社合算税制に係る実地調査の状況

外国子会社合算税制については、非違があった件数は106件と、前事務年度(107件)とほぼ変わらずであった一方、申告漏れ所得金額は207億円となり、前事務年度の406億円から49%減となりました。従って、1件当たり申告漏れ所得金額は前事務年度の3.8億円から1.95億円へと大幅に減少しました。

(3)移転価格税制に係る実地調査の状況

移転価格税制については、非違があった件数は前事務年度比16%減の125件であったにもかかわらず、申告漏れ所得金額は512億円と31%増加した為、1件当たり申告漏れ所得金額は前事務年度の2.6億円から4.1億円へと増加しました。

(4)移転価格税制に係る事前確認の申出・処理状況

移転価格税制に係る事前確認(“APA”)の申出及び処理の状況については、申出件数は前事務年度日24%減の155件にとどまった一方、処理件数は前事務年度比11%増の139件(26%増)となりました。従って申出件数と処理件数の差は縮まったものの、依然申出件数の方が多い状況は変わらず、繰越件数は前事務年度比16件増加し、過去最高を更新する635件となりました。

 

2.海外取引課税の事例

今回の国税庁発表資料には、海外取引に係る法人課税の事例が紹介されていましたので、以下参考までに紹介させていただきます。

  • 不正~輸入仕入金額の水増し及びキックバック

(概要)調査法人A社は、Ⅹ国法人B社に仕入単価を水増しした請求書を発行させる方法で、仕入金額を過大に計上していた。なお、A社は、仕入れ水増し相当分の金額をB社に送金後、B社に対し、A社代表者の知人等が保有する国内の預金口座にこの金額を送金するように指示しており、この送金された金額は、その知人等が現金で引き出し、A社代表者に渡していることが把握された。(申告漏れ所得金額:約1億4千万円)

当事者は、知人経由で送金すればバレないと思って行ったのかもしれませんが、本事例はまさに、国税当局は日本の銀行口座の入出金明細は全て見ることができることを示しています。勿論海外の非居住者銀行口座についても当局間の情報交換制度によって大概把握されていると思われることから、同じ不正目的で海外の口座を使ったとしても、見つかる可能性は高いのではないかと考えられます。

(2) 海外取引に係る源泉徴収漏れ

(概要)調査法人は、X国在住の非居住者Aからの借入金を弁済期までに返済しなかったため、Aから訴訟を提起された。その後、調査法人は、借入金元本と「遅延損害金」を支払うことでAと和解したが、この「遅延損害金」は源泉徴収の対象となる「借入金の利子」に該当するにもかかわらず、調査法人は、その支払の際に源泉徴収を行っていなかった。(追徴税額:約6百万円)

非居住者からの借入に関する利子を支払う際は、20.42%の源泉税徴収が必要となりますが、本件においては、非居住者貸出人に支払う遅延損害金についても利子に該当し源泉徴収が必要である事が示されています。但しその根拠は所得税法ではなく基本通達上の注意書きであり、租税法律主義に鑑みれば、当然納税すべき事のように公知する程の法的拘束力があるのか疑問に思う所もあります。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2025年1月号掲載記事より転載)