2024年8月:軽課税国・地域の税制厳格化

世界的且つ強力に推進されている租税回避防止の動きは、グローバルミニマム課税(GMT)という「怪物」まで生み出しました。日本でも既存の法人税とは別体系のいわゆるGMT税制が創設されましたが、殆どの対象企業(連結売上高€7.5億以上)にとっては、納税額が殆ど発生しない割に多大な事務負担を要し、GMTを遵守する意義が見えにくいと推測されます。

それはさておき、今まで軽課税により企業を誘致して成り立ってきた国・地域も、ブラックリストに指定され資本が流出するような事態を避けるべく、OECDやEUの打ち出す租税回避防止ルールに則した税制変更を行い始めています。以下例(概略)を紹介します。

1.バミューダ

バミューダ(英領バミューダ諸島)では、2023年12月に法人所得税(CIT)が法制化され、2025年1月1日以降開始の事業年度から適用されます。法人税率は15%ですが、適用対象は連結売上高€7.5億以上の多国籍企業に属する在バミューダ法人・支店等となります。つまり、バミューダにおけるCITの創設は、GMTの世界的施行を受けてのものであり、GMT対象の企業グループを対象とした制度です。多国籍企業が有する海外拠点のうち法人税率が15%未満の地域については、GMTの所得合算ルール(IIR)により15%との差額を親会社の本国で合算課税されてしまいます。もしバミューダが今まで通り法人税無しのままでいけば、本社所在国でバミューダ法人所得の15%(15%-0%)が合算課税され、企業の税額アップにもかかわらずバミューダでは何もとれないことになります。一方バミューダで15%課税を実施すれば、本国で合算課税されるはずだった分がそのままバミューダで課税できる為、企業の税コスト総額に影響を与えずバミューダで税収を獲得できるようになります。

今回のバミューダCITは、GMT適用が本社所在国で必要ない多国籍企業グループ等の適用除外、その他課税所得計算等における様々な選択権が納税者にある為、同じ国内法人への15%課税制度であるGMTのQDMTT(本月報2024年2月号参照)には該当しないとされます。QDMTTには拘らず、GMTの影響を受ける法人にのみ適用を限定し、法人税課税の影響を最小限に抑えようとするバミューダ政府の苦心の程がうかがえます。しかし、元々物価及び管理コストの高いバミューダに拠点を置くのは大企業が殆どであることから、長期的には、法人税無税という大きなメリットを失ったそれら大企業がバミューダから撤退していく可能性もあると思われます。

2.香港

 香港(特別行政区)では従来、日本のような全世界所得課税方式とは対極にある域内源泉所得課税方式を採用しており、香港法人が国外法人から得る利息、配当、ロイヤルティ等知財権収入などの受動的所得は従来非課税でした。ところが、域外源泉所得非課税を問題視するEUが香港を非協力国リストに加えた事を受け、香港は2023年より税制を改正し、国外の関連会社より受取った利息、配当、知財権関連収入及び株式持分処分益について基本的に課税扱いとしました。しかしそれでもEUのリストから外れなかったことから、処分益課税の対象を株式持分のみから全ての資産(動産、不動産、無形資産)に拡大した改正税制を今年から施行しました。

 但し、金融会社が本業に関して得る所得については従来通り非課税である他、主に以下の適用除外要件があります。

経済実体要件:特定の経済活動を行う為に適切な数と質の従業員と施設を香港に保有していること(但し特定の経済活動を外部委託によって行う事も可能):香港法人が純粋持株会社の場合、経済実体要件を満たせないと課税となります。

資本参加要件:(1)香港の居住者であり、又は香港非居住者だが香港に恒久的施設を有し、且つ(2)直前12ヵ月以上投資先の株式を5%以上保有すること:香港法人が純粋持株会社以外、つまり香港で他の主たる事業を行っている場合、経済実体要件を満たせなくても上記資本参加要件を満たせば、配当及び株式処分益のみについては非課税となります。

以前は、租税条約の違いを利用し、香港の持株子会社を中間において中国投資の回収(配当収入)に係る節税をすすめる向きがありましたが、今回の改正はこのようなスキームも規制対象であるといえます。勿論上述の通り、経済実体のある又は他に事業を行っている香港子会社は、上述の適用除外要件により従来通り非課税を享受できる可能性が高い為、実質的影響は殆どないと考えられます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2024年8月号掲載記事より転載)