新着情報(2024年4月1日):米国IRSが2023年度APAレポートを発表
米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2024年3月26日付で、2023年度のAPAの状況をまとめたレポート(Announcement and Report concerning Advance Pricing Agreements、以下“APAレポート”)を発表しました。
APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。米国では1991年から行われていますが、IRSのAPAレポートは2000年以降毎年発表されています。ちなみに、APAを世界で初めて制度化したのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2023年度米国APAレポートの概要は以下の通りです:
(1)申請件数
2023年度のAPA申請件数は167件と、2022年度の183件から16件減少しました。IRSがAPA申請料を$113,500へと大幅に引き上げたことにより申請件数が2018年の203件から2019年には121件と大幅に減少、その反動でコロナ禍にもかかわらず2020~2022年度まで3年連続で回復しましたが、今回は4年連続の増加とはならず、再び減少に転じました。
2023年4月25日にIRSが発表した通達において、米国でAPA申請を検討する企業は、IRSのAPAチームと事前相談を行い、事前相談メモランダムを提出することが要請されるようになりました。IRSは同メモランダムを審査した上、その企業が正式にAPAを申請すべきか、又はAPA以外の方法を選択すべきかを4週間以内に決定して、企業に通知します。2022年8月に成立したインフレ抑制法においてIRSの予算が大幅に増加し税務執行力が強化されていますが、IRSはその大半を個人富裕層及び中堅以上の企業に対する税務調査の強化に使用する意向であり、APAにまわせるリソース(費用及び人員)は引続き限られているといえます。そのような中、APAの申請をより選別し、事案処理の迅速化を図ろうとする意図が本通達にはうかがえます。それに加えて、今年2024年2月2日付で、IRSに支払う高額のAPA申請料が以下の通り更に値上げされました。(新規申請:$113,500→$121,600、更新申請:$62,000→$65,900、小規模APA申請:$54,000→$57,500)
コロナ禍収束にもかかわらず2023年度APA申請件数が再び減少したのは、このようなAPA申請の選別化及び申請料引き上げの影響と考えられます。
二国間又は多国間で締結されるAPA(以下“二国間APA”)申請件数も、2022年度の161件から150件へと11件減少しました。相手国で最も多いのは前年と変わらず日本(30%)、インド(21%)、カナダ(14%)の順となっており、米国で申請された二国間APAの65%をこの3ヵ国向けが占めています。
(2)締結件数
一方、2023年度のAPA締結件数は156件と、2021年度の77件に比べて倍増という大幅な伸びを示しました。また全締結件数の内、既存APAの更新件数は74件と、こちらも2022年度の42件から大幅に増加しましたが、全締結件数に占める更新件数の割合が47%と5割を下回ったのはここ数年来なかったことであり、それだけ2023年度においては新規事案の処理が進んだことを示しています。申請件数を絞った分、事案の処理に多くのリソースを投入できたのではないかと推測されます。
2023年度APA全締結件数のうち132件(85%)は二国間APA、残る24件(15%)が米国のみAPAとなっています。二国間APAの相手国としては日本が変わらずトップであり、米国APAにおける日本への依存度が大きい事は相変わらずですが、全体に占める比率は32%と、2022年度の39%から低下しました。以下、2位インド(17%)、3位イタリア(11%)。4位カナダ(8%)となっています。
(3)繰越件数
締結件数が急増し、申請件数にほぼ近い数字になったことに加え、締結前に企業が申請を撤回した事案が13件あったこともあり、IRSが抱える未処理事案の繰越件数は2022年末の564件から2023年末558件へと、僅かながら減少しました。
(4)平均処理期間
2023年度の全締結事案における平均処理期間は42.5ヵ月と、2022年度の42.0ヵ月から0.5ヵ月増加しました。新規事案の平均処理期間が53.0→49.4ヵ月へと減ったものの、全体の5割近くを占める更新事案の平均処理期間が33.6→34.9ヵ月へと増えました。既に述べた通り締結件数が増えた事は朗報ですが、新規事案の締結に平均約4年以上かかっている状態は変わっておらず、企業が期待する2~3年での締結には未だ程遠い状況である事を示しています。