新着情報(2023年12月21日):中国が2022年度のAPAレポートを発表
中国の国家税務総局(“STA”)は2023年12月19日付で、2022年度(2022年1月~12月)の事前確認(Advance Pricing Arrangement、以下”APA”)に関するレポート(第14回)を発表しました。
APAとは、移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間)との間で予め合意又は確認し、その後一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスク回避の最も確実な手段です。2022年度中国APAレポートの概要は以下の通りです。
(1)全般
2022年度のAPAの締結件数は34件と、前年度である2021年度から14件増加し、単年度締結件数の過去最高を更新しました。34件の内10件が過去に締結したAPAの更新事案でしたが、新規APAの締結件数も24件(前年度比+8件)と過去最高を更新しました。
但し、日本や米国の二国間APA締結件数が毎年100件を超えていることに比べると未だ絶対水準としてはかなり少ないことから、STAにおいてAPAの担当者を増やす等の取組み次第で、件数は今後も伸びる余地があると思われます。
締結34件の内訳としては、中国のみと締結するUnilateral APA(以下“ユニAPA”)が19件、二国間APAは15件と、二国間APAが殆どを占める日米に比べて相変わらずユニAPA件数の比率が高いのが特徴です。2021年9月からはユニAPAに簡易手続きが適用できることになり、STAとしても相手国税務当局との面倒な交渉無しに自分達のペースで企業の移転価格をコントロールし易いユニAPAを推進したい意向はあるようです。さらに2022年5月、国家税務総局深圳税務局が深圳税関と共同で「関連輸入商品の移転価格協調管理の実施に関する事項に関する通達」(深圳税関[2022]第62号)を公布し、企業所得税(法人税)と関税評価をあわせて当局と事前に移転価格を合意できる仕組みを整えたことも、ユニAPA増加に寄与していることを本レポートは示唆しています。これらを合わせて考えると、中国では今後もユニAPAの締結件数は高めに推移すると思われますが、APA本来の目的である両国間での二重課税の排除は、二国間APAによってのみ完全に実現できるものです。中国との二国間APA締結にはハードルが多いことから、簡単なユニAPAは一見魅力的ですが、中国側に有利な価格設定となりやすいユニAPA締結が日本における税務リスクを高めてしまう場合がありますので、注意が必要です。
(2)APAの業種別内訳
2022年度に締結された34件のAPAの内25件(74%)が製造業の事案でした。累計ベース(2005~2022年度)では、全締結件数260件の内製造業が203件と78%を占めています。
(3)二国間APAの地域別内訳
2022年度に締結された15件の二国間APAの内、日本を含むアジア諸国との事案が10件(67%)で最多となっています。累計ベース(2005~2022年度)でも、二国間APA事案116件の内対アジア諸国が77件(66%)と、対欧州の23件、対北米の15件を大きく引き離しています(残り1件は対オセアニア(ニュージーランド))。
(4)締結期間
2022年に締結されたAPAの内、ユニAPAは全19件が2年以内に締結されました。一方、二国間APAで2年以内に締結されたのは15件中10件(67%)でしたが、2021年は11件中2件(18%)のみ2年以内に締結したのに比べれば事案の処理速度は改善したといえます。
(5)締結待ち事案とその内訳
2022年度末におけるSTAによる締結待ちの事案(申請意向を当局に提示した事案、及び申請済みの処理中事案)件数は計179件となり、前年度末の151件から28件増加しました。内訳としては、ユニAPAは34件(前年度比+20件)、二国間APAは145件(前年比+8件)となり、依然として二国間APAの締結待ち件数が圧倒的に多いものの、ユニAPAの締結待ち件数が大幅に増加したのも注目されます。
また、二国間APAの締結待ち件数の内申請済件数は98件と、前年の100件から微減となりましたが引続き高水準で推移しています。申請済の事案は、申請意向が認められた後、STAに正式に申請を受理されたものであることから、次年度以降の二国間APA締結件数も着実に増加していくと予想されます。
(6)締結事案の対象取引別内訳(2005~2022累計)
有形資産取引 55%、 無形資産取引20%、役務提供取引24%(無形資産取引の割合が徐々に増えています。)
(7)締結事案の算定方法内訳(2005~2022累計)
TNMM<取引単位営業利益法の略、以下同じ>(対総費用営業利益率)53%、TNMM(売上高営業利益率)29%、原価基準法7%:
製造業の事案が多い事を反映し、製造業で多く用いられるTNMM(対総費用営業利益率)の使用が半数以上を占める傾向が続いています