2023年4月:2023年4月:OECD Pillar 2 (GMT)の世界的実施が近づく
OECD主導で進められているグローバル課税案については、これまで何度か本月報でも紹介してきました。元々はGAFAなどのIT大手が行う大規模な節税に対するデジタル課税案としてスタートしたプロジェクトの筈が、米国の反対などを経てデジタル課税の性質をほぼ失い、超大企業の超過利益の課税権を各国に分配するPillar 1と、最低税率(15%)に満たない国の所得を多国籍企業の本社所在国で合算課税する、Global Minimum Tax (グローバル・ミニマム課税、以下“GMT”)と称するPillar 2の2部構成となりました。しかも当初のデジタル課税案を潰した米国は両Pillar共に当面参加の見込みはないという、客観的にみれば不可解な状況の中、まずはPillar 2におけるGMTの実施が世界的に見えてきました。元々OECDの推奨した2023年からの実施目標から約1年遅れの2024年から、各国の実施が続々と決まっています。日本も令和5年度(2023年度)税制改正大綱にて、Pillar 2に該当する「グローバル・ミニマム課税への対応」がもり込まれました。
1.日本のGMT案(3月可決予定)の概要
- 対象法人
直近4年度の内2年度以上におけるグループ総収入額が7.5億ユーロ相当額(約1,000億円)以上の多国籍企業グループが対象となります。但し、政府系企業、国際機関、非営利会社、年金基金、各種投資会社等は除外対象となります。
(2)課税方式
法人実効税率が最低基準税率である15%を下回る国の関連会社における15%との差額分の税額(Top-up tax)を親会社に合算課税する仕組みです。これは、OECDがPillar 2にて定めた課税方法の中核である所得合算ルール(Income Inclusion Rule、以下“IIR”)であり、今回はこのIIRが先行適用されます。なお、実効税率が15%を下回っていても、有形固定資産や従業員への給与支払がある(要するに実体を有している)企業の場合、有形固定資産額及び給与支払額の一定割合(5%以上)が実効税率計算上分母の所得額から減算され、実効税率が上がる(=合算税額が下がる)ことになります。
多国籍企業グループの親会社の所在する国がIIRを適用しない場合、Pillar 2を適用する国にある企業から低税率国の関連会社等に対する支払の損金算入を否認する、Under Tax Payment Rule(以下“UTPR”)というルールなど、Pillar 2で推奨される他の課税方式の適用は後年に持ち越しとなります。
(3)適用除外
企業の過度な事務負担を減らす目的で、実効税率15%未満の国でも、そこに所在する関連会社の総収入が1,000万ユーロ相当額(約14億円)未満で且つ損益額が100万ユーロ相当額(約1.4億円)未満の場合、その国での合算適用は除外されます。
(4)申告期限、及び情報申告制度
GMTの確定申告期限は、年度終了後1年3ヵ月以内(初回は1年6か月以内)となります。なお申告時には、グループに属する構成会社の名称、所在地国毎の実効税率、GMT課税額などの情報も申告(英語で電子申告)する必要があります。
(5)適用時期
2024年4月以後開始の会計年度からの適用となります。よって3月期決算企業の場合は2025年3月期より適用となり、適用初年度のGMT申告期限はその18か月後の2026年9月末日となります。
他、細かな規定は後日政令等にて出されます。また本件GMT施行に伴い、外国子会社合算税制において、適用が免除される租税負担割合が30%以上から27%以上に下がるなど若干の緩和が行われる予定です。これにより、米国(地方税を含め実効税率27%~30%の企業が多いと思われる)関連会社が免除の恩恵を最も受ける事になると思われます。
2.他国の状況
(1)EU: 昨年末の合意を受け、全27加盟国は、今年末までにIIRを適用する必要があります。ドイツでも3月中にIIRの草案が出る予定です。
(2)英国:既に草案は出ており、2013年12月末以降開始の会計年度より(実質2014年度より)適用の予定となっています。
(3)韓国:既に昨年末に法案を可決し、2024年1月以降開始の会計年度からIIR及びUTPRの同時適用が決まっており、世界で最もアグレッシブにGMTを進めている国の一つといわれています。
(4)タイ、香港、シンガポール:何れも草案発表は未だながら、2025年から実施予定と報道されています。またタイ政府は投資委員会(BOI)に対し、外資企業への税優遇策の見直しを指示した模様です。
(5)米国:上述の通り、当初のデジタル課税案を潰した張本人にもかかわらず、Pillar 1はおろかPillar 2も(既にGILTIという同様の合算税制を国内で有するという理由により)法制化の見通しは経っていません。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2023年4月号掲載記事より転載)