2023年2月:OECDが2021年の相互協議統計を発表(2)

前月号に続き、経済協力開発機構(OECD)が昨年11月に発表した、世界127ヵ国における2021年二国間相互協議統計(Mutual Agreement Procedure Statistics for 2021)の概要を紹介します。

  1. 2021年に終了した相互協議の平均処理期間及び処理率

国名

平均処理期間

処理率※1

ドイツ

19.4ヵ月

39%

イタリア

32.0ヵ月

30%

フランス

28.3ヵ月

27%

米国

45.4ヵ月

46%

インド

65.8ヵ月

21%

中国

49.0ヵ月

21%

日本

29.3ヵ月

32%

※1 処理率:2021年に処理された件数÷(2021年年初の繰越件数+⦅2021年開始件数÷2⦆)

2021年に処理された相互協議に要した平均期間は、インドが5年超と飛びぬけて長く、次に中国(4年超)、米国(4年弱)と続きます。インド、中国は処理率も21%と低く、処理にもかなりの時間がかかっているので、これらの国との相互協議を進めるのには引続き注意が必要であることを示しています。一方、米国は処理率が46%と非常に高く、2021年は在庫の半分近くを処理した計算になります。米国の処理期間が長いのはインドとの相互協議が最近非常に多い事の影響を受けていると考えられます。

日本は平均処理期間が30ヵ月を下回っているものの、OECDが示す相互協議の目標処理期間である24ヵ月を半年近く上回っており、処理率の32%も平均的な印象です。身近な欧州諸国との事案を短期間で多数処理しているドイツなどと比べるのは公平ではないとは思うものの、世界的にみるとAPA関連以外の日本の相互協議の実績は目立ったものがないことがここでも示されています。

  1. 2021年に終了した相互協議における解決件数(カッコ内は全体に占める比率)

国名

相互協議での完全合意

自国での救済 ※2

解決件数計

ドイツ

401(58%)

157(23%)

558(81%)

米国

247(50%)

161(33%)

408(83%)

インド

46(24%)

95(49%)

141(73%)

中国

17(47%)

6(17%)

23(64%)

日本

30(75%)

0(0%)

30(75%)

※2 「自国での救済」は、相互協議を申請後に合意でなく自国での税還付等により救済した件数、及び調停、訴訟などの国内手続きにより最終的には解決した件数の合計。尚、二重課税の一部排除で合意した件数は除く。

上記の主要国比較においては、相互協議での完全合意による解決の比率は日本が75%と最も高くなっていますが、件数としては少なく、特筆すべきものではありません。それよりも問題なのは、自国での救済が1件もなかった事です。日本の税務当局において二重課税後に税還付で対応する等の融通性に欠けているか、あるいは不服審判や税務訴訟など日本国内の司法制度が実質機能していない事が示されている可能性があります。実際、2021年のみならず、過去年度においても日本における自国での救済率は、他国平均に比べて常に低く推移しています。

一方、ドイツや米国は相互協議による完全解決率こそ50%台ですが、自国による救済割合が多く、それも含めた解決率は80%を超えています。数百件の件数を処理して尚且つこの比率をあげている実績は目立ちます。また、相互協議による完全合意率は24%と低いインドですが、国内救済手続きにより5割近くが解決されており、解決率全体としてはほぼ日本と変わらなくなっています。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2023年2月号掲載記事より転載)