2023年1月:OECDが2021年の相互協議統計を発表(1)

経済協力開発機構(OECD)は、世界127ヵ国における2021年二国間相互協議統計(Mutual Agreement Procedure Statistics for 2021、以下“2021年統計”)を2022年11月22日に発表しました。

移転価格税制など国際課税により二重課税が生じた場合、基本的に租税条約締結国間であれば、納税者の申請により、両国政府当局間で二重課税を排除する為の相互協議を行ってもらう事ができます。相互協議において、両国当局は二重課税排除を「解決するよう努める」義務を負うものの、解決する義務自体までは負っていないことから、協議が成功し二重課税が排除されることもあれば、協議が決裂し二重課税が排除されない事もあります。以下、2021年統計の概要を紹介します。

  1. 全世界の発生・処理件数

 

2020年

2021年

増減 (%)

(移転価格)

1,178

1,051

-127(-11%)

(その他)

1,330

1,372

+42 (+3%)

発生 計

2,508

2,423

-85 (-3%)

(移転価格)

1,077

1,179

+102(+9%)

(その他)

1,301

1,364

+63 (+5%)

処理 計

2,378

2,543

+165 (+7%)

2021年は、その移転価格に関する相互協議発生件数が前年比約11%減少したことにより、発生件数合計でも3%減少となりました。移転価格に関する発生件数は2020年に1,178件と過去最高を更新したことの反動と、2021年はコロナ禍の影響による行動制限がフルに反映されたことが減少の要因と思われます。但し、例えば2017年の発生件数は移転価格が779件(38%)、その他が1,297件(62%)でしたので、当時に比べると移転価格の発生件数及び全体に占める割合(44%)は確実に増えています。これは、対BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトを受け各国で移転価格税制の大幅改正と税務当局の執行が強化され、世界的に更正課税が増加している事を示しているといえます。

一方、相互協議の処理件数は移転価格、その他ともに増加しており、コロナ禍にもかかわらず、当局間の相互協議はリモート会議等を通じて中断せずに行われていたことを示しています。また、2021年は発生件数(計2,423件)よりも処理件数(計2,543件)が多かった分、全世界での相互協議繰越件数は6,421件→6,301件へと120件減少しました。

  1. 2021年の相互協議件数(国別)

 

年初繰越

発生

処理

年末繰越

ドイツ

1,410

703

690

1,423

イタリア

990

279

343

926

フランス

988

307

313

982

米国

927

254

490

691

インド

872

76

194

754

中国

153

43

36

160

日本

103

43

40

106

上記表の通り、2021年初の繰越件数上位3ヵ国は欧州です。国が近いので当局間の協議も頻繁に行えるためか、相互協議は欧州諸国間で非常に多く活用されています。一方4位の米国では、発生件数の2倍近い処理件数を計上する事により繰越件数を1年間で236件減らし、全世界ベースでの繰越件数減少に大きく貢献しました。

ちなみに、日本及び中国共に、2021年の相互協議発生件数は43件と、欧米、インドに比べると相当少ない件数となっています。なお、日本は二国間移転価格事前確認(APA)の相互協議件数は多く、2021事務年度でも188件発生していますが、本統計ではAPAに係る相互協議件数は含まれていません。

(翌月号に続く)

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2023年1月号掲載記事より転載)