2023年3月:外国税務当局との情報交換の状況
国税庁は2023年1月31日付で、「令和3(2021)事務年度*における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を発表しました。
従来からの租税条約に基づく「自発的な情報交換」及び「要請に基づく情報交換」に加え、経済協力開発機構(OECD)主導によるCRS(Common Reporting Standard、共通報告基準)に基く非居住者の金融口座情報(以下“CRS情報”)及び多国籍企業の国毎での活動状況を示すCbCR(Country-by-Country Report、国別報告書)の自動的情報交換も行われており、日本も2018事務年度以降CRS情報とCbCRの自動的情報交換を行っています。本稿ではその自動的情報交換を中心に、本発表資料の概要を紹介します。
- 自動的情報交換
- CRS情報の交換
CRS情報交換件数の推移(単位:千件)
事務年度→ | 2019 | 2020 | 2021 |
外国税務当局から受領した件数 | 2,059 | 1,907 | 2,501 |
国税庁から提供した件数 | 474 | 651 | 652 |
外国税務当局から受領した件数は2021事務年度に約250万件と、前年比大幅に増加しました。その内約3分の2がアジア・大洋州の国・地域からの情報となります。更に2022事務年度については半年のみ(2022年7~12月)で、外国税務当局から257万件と2021事務年度全体の数字を上回るCRS情報を受領しました。日本人が海外、特にアジアで保有する非居住者口座の情報捕捉が急速に進んでいると思われます。
ちなみに2021年度現在、CRS情報自動交換の実施対象国は108ヵ国・地域(日本を除く)となっていますが、例えばアジア諸国ではタイ(2023年以降に初回交換)、カンボジア・フィリピン・ベトナム(何れも初回交換時期不明)は未だ含まれていません。また、FATCAという独自の制度で世界中から口座情報を収集している米国はCRS情報交換制度に不参加の為、例えば日米間では日本の口座情報は米国に提供されますが米国の口座情報は日本に提供されないという不平等状態になっていると考えられます。
- CbCRの交換
CRS情報交換件数の推移(単位:グループ数)
事務年度→ | 2019 | 2020 | 2021 |
外国税務当局から受領したグループ数 | 1,751 | 2,186 | 2,246 |
国税庁から提供したグループ数 | 844 | 898 | 901 |
CbCRとは、連結売上7.5億ユーロ以上(日本の税法上は1,000億円以上)の多国籍企業グループ(以下“グループ”)に作成義務がある、事業を展開する各国別の損益、資産、従業員数などの情報を含む報告書です。グループの最終親会社が所在する国の税務当局にCbCRを提出し、その税務当局からグループが拠点を置く関係各国の税務当局に提供されます。2021事務年度は、外国に最終親会社がある2,246グループのCbCRを53ヵ国・地域から受領し、日本に最終親会社がある901グループのCbCRを60ヵ国・地域の外国税務当局に提供しました。尚CbCRは、主に移転価格税制に係る税務調査において税務当局により活用されています。
- 自発的情報交換
特定の国から大量の情報(20,351件)を取得した2020事務年度と比べると、2021事務年度における外国税務当局からの自発的情報の受領件数は448件へと急減しましたが、それでも日本から外国に提供した件数(73件)よりは大分多くなっています。
- 要請に基づく情報交換
要請に基づく情報交換は、個別の税務調査において必要な情報の提供を外国税務当局に要請するものです。日本から外国税務当局への要請件数が2020事務年度638件、2021事務年度639件とほぼ横ばいながら、外国税務当局から国税庁に対する要請件数(2020事務年度251件、2021事務年度128件)より相当多くなっています。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2023年3月号掲載記事より転載)