新着情報(2022年11月30日):中国が2021年度のAPAレポートを発表
中国の国家税務総局(“STA”)は2022年11月21日付で、2021年度(2021年1月~12月)の事前確認(Advance Pricing Arrangement、以下”APA”)に関するレポート(第13回)を発表しました。
APAとは、移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間)との間で予め合意又は確認し、その後一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスク回避の最も確実な手段です。2021年度中国APAレポートの概要は以下の通りです。
(1)全般
2021年度のAPAの締結件数は20件と、コロナ禍にもかかわらず過去最高の29件を記録した2020年度から9件減少しました。但し、20件の内4件のみが過去に締結したAPAの更新事案(大幅に労力が少ない)であり、新規APAの締結件数は16件と、前年度の19件から-3件の微減にとどまりました。
いずれにせよ、日本や米国の二国間APA締結件数が毎年100件を超えていることに比べると未だかなり少ないといえますが、現在の中国の経済規模からするとAPAのニーズも日米と同等以上にある筈ですので、STAにおいてAPAの担当者を増やす等の取組み次第で件数は今後も伸びていくと思われます。
締結20件の内訳としては、中国のみと締結するUnilateral APA(以下“ユニAPA”)が9件、二国間APAは11件と、二国間APAが殆どを占める日米に比べて相変わらずユニAPA件数の比率が高いのが特徴です。昨年9月からはユニAPAに簡易手続きが適用できることになり(本月報2021年9月号参照)、STAとしても相手国税務当局との面倒な交渉無しに自分達のペースで企業の移転価格をコントロールし易いユニAPAを推進したいようです。よって中国では今後もユニAPAの件数の比率が高止まりすると思われますが、APA本来の目的である二重課税の排除は二国間APAによってのみ完全に実現できるものです。中国との二国間APA締結にはハードルが多く、簡単なユニAPAは一見魅力的ですが、中国でのユニAPA締結が日本における税務リスクを高めてしまう場合がありますので、注意が必要です。
(2)APAの業種別内訳
2021年度に締結された20件のAPAの内65%の13件が製造業の事案でした。累計ベース(2005~2021年度)では、全締結件数226件の内製造業が178件と79%を占めています。
(3)二国間APAの地域別内訳
2021年度に締結された11件の二国間APAの内、日本を含むアジア諸国との事案が8件で最多となっています。累計ベース(2005~2021年度)でも、二国間APA事案101件の内対アジア諸国が67件(66%)と、対欧州の20件、対北米の13件を大きく引き離しています。
(4)処理期間
2021年に締結されたAPAの内、ユニAPAは9件中7件が2年以内に締結された一方、二国間APAで2年以内に処理されたのは11件中2件のみであり、9件が締結までに2年超を要しました。STAはこれまで二国間APAについては、申請受付を厳選する代わり、申請を受理した事案については他国に比べ短い時間で締結していましたが、最近の統計から、そのスタンスが変わってきていると思われます。
(5)締結待ち事案とその内訳
2021年度末におけるSTAによる締結待ちの事案(申請意向を当局に提示した事案、及び申請済みの処理中事案)件数は計151件となり、前年度末の127件から24件増加しました。内訳としては、ユニAPAは14件(前年度比+2件)、二国間APAは137件(前年比+22件)となり、圧倒的に多い二国間APAの締結待ち件数は更に増えました。このように二国間APAについては、相変わらず締結件数に比べ締結待ち件数の多さが目立ちます。但し、締結待ち件数の内申請意向の提示件数は35→37件と微増であった一方、申請済件数が80→100件へと大幅に増加しました。申請済の事案はSTAに申請を受理されたものであることから、次年度以降の二国間APA締結件数は着実に増加していくと予想されます。
(6)締結事案の対象取引別内訳(2005~2021累計)
有形資産取引 57%、 無形資産取引 19%、役務提供取引 24%(無形資産及び役務提供取引の割合が徐々に増えています。)
(7)締結事案の算定方法内訳(2005~2021累計)
TNMM<取引単位営業利益法の略、以下同じ>(対総費用営業利益率)51%、TNMM(売上高営業利益率)30%、原価基準法8%:
製造業の事案が多い事を反映し、製造業で多く用いられるTNMM(対総費用営業利益率)の使用が約半数を占める傾向が続いています。