2022年10月:途上国における税務への信頼度調査
英国勅許公認会計士協会(Association of Chartered Certified Accountants)と国際会計士同盟(International Federation of Accountants)による共同調査の結果をまとめた“Public Trust in Tax: Global Perspectives 2022”(グローバルな視点からの、税に対する市民の信頼度調査:2022年)という報告書が9月に発表されました。昨年まではG20諸国を対象として同様の調査を行っていましたが、今年は初めてG20諸国以外の発展途上国14か国(アジアではフィリピン、ベトナム、マレーシア、パキスタン、カザフスタン、他9か国はアフリカ・中南米の諸国)を対象とし、それら諸国に所在する所得水準や学歴が様々な計5,958人の個人にインターネットで調査を行いました。これらの国が今回調査対象に選ばれた理由としては、2050年までの今後約30年間で人口がより増加していくのはG20諸国(中国、インド、ブラジルなどを含む)よりもこれらの国であると予想されているからであるとの事です。つまり、これら諸国における今後の経済成長の為には、税務の公平性・透明性も重要であり、問題があれば改善していくことが有益であろうとの事です。以下、本調査結果の概要を紹介します。
1.税務システムに係る各関係者の信頼度
信頼度の高い順に(1)会計士・税理士、(2)税務弁護士、(3)民間機関、(4)税務当局となっていますが、税務当局に関しては「信頼できる」(「非常に信頼できる」を含む)が全体50%弱であるのに対し、「信頼できない」(「非常に信頼できない」を含む)も約28%と高い割合でした。但し、グアテマラ、アンゴラ、ドミニカ共和国、ペルーなどの中南米・アフリカ諸国における税務当局の信頼度が非常に低い事が全体の数字を押し下げている面もあります。ちなみに、関係者の中で最も信頼度が低かったのは政治家であり、「信頼できない」が「信頼できる」の約2倍に達しました。ベトナムのみ、政治家への信頼が突出して高い結果となりましたが、この理由は政治体制によるかもしれません。なお、会計士・税理士への信頼度が最も高いのは、以前行われたG20諸国に対する調査結果と同じとの事、同業界に属する者としては、改めて身の引き締まる思いです。
2.税務処理(申告)に費やす時間
全体的には、“1日以上7日以内”で終えると答えた人の割合が最大でした。但し国により大きな差がみられ、一番短いのはケニア(全体の34%が1日以内に終え、74%が7日以内に終える)、次いでエジプト(65%が7日以内に終える)となっています。一方でベトナムのみ、8日以上を要した人の割合が50%を超え、突出して長い日数を税務申告に要しているようです。
3.税務処理の際に利用するサービス
全体としてはオンライン申告サービスの利用率(42.2%)が、会計士・税理士の利用率(41.2%)を上回りました。昨年G20諸国に対し行った際のオンライン申告サービスの利用率(36.9%)を上回るという点でも意外でした。但し国毎のバラツキはあり、上述した処理日数が最も短いケニアは、80%超とオンライン化がかなり進んでいる事を示しています。他にはパキスタンとカザフスタンも、オンラインサービスの利用率が50%を超えました。一方、会計士・税理士の利用率が一番高かった(約60%)のはベトナムでした。
4.政府の税優遇政策に対する評価
回答者の評価が高かった対象の順から、(1)グリーン(環境に優しい)エネルギー・プロジェクト、(2)退職後の貯蓄、(3)インフラ整備プロジェクト、(4)コロナ禍で損害を受けた業界、(5)多国籍企業による投資、(6)慈善寄附、(7)映画・芸術プロジェクトとなっています。しかし、(1)のグリーンエネルギー(73.8%が適切と考える)と最下位の映画・芸術プロジェクト(57.1%が適切と考える)の差は大きくはありません。そもそも人々にとって税優遇は良い事であり、低評価を下すのは難しいという面もあるでしょう。また昨年(2021年)のG20諸国向け調査では、コロナ禍で損害を受けた業界向けの税優遇に対する評価が最も高かったのですが、本報告書では、それは地域差(G20以外の国ではコロナ禍による損失救済の優先度は低い)なのか、年代差(2022年の方が損害が少ない)なのかは不明であるとしています。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2022年10月号掲載記事より転載)