2022年5月:コロナ禍における中国の減税政策
最近の本月報(2021年11月号及び今年2月号)で紹介した通り、各国が莫大な金額をコロナ禍対策につぎこんだ事で悪化した財政収支を改善する目的もあってか、税率引き上げをはじめとする課税強化の動きが主要国でみられます。日本も、現政権になってから金融所得課税の強化が検討されているなど、やはり課税強化の方向に進むと予想されます。
そのような世界の趨勢に対して逆張り路線を行くのが中国です。勿論中国でもコロナ禍以降財政赤字及びそのGDPに占める比率は増加しましたが、それにもかかわらず、特に中小企業を対象として、一貫して減税政策を推進しています。世界的にインフレも進んでおり、人々の暮らしが楽ではない中での増税は経済にはダブルパンチであり、中国のようにまずは経済を良くして納税主体の所得を高める政策の方が、中長期的には財政収支も好転するように思えますが、どうでしょうか。以下、最近発表された減税/課税緩和策について紹介します。
A. 個人所得税優遇政策の延長
中国財政部と国家税務総局は2021年12月31日付で、個人所得税法が2019年1月1日から改正されたことで21年末に期限を迎える予定だった優遇政策を2023年12月末まで2年間延長すると発表しました(財政部 税務総局公告2021年第42号及び第43号)。延長が決まった優遇政策は主に①賞与、②外国籍者への手当に関するものです。
①賞与
年1回限り支給される賞与については、支給月の賃金・給与所得に合算して課税せず、給与とは分離して12 等分した金額に基づき適用税率を算出し税額を確定できる優遇政策(国籍は問わない)です。2021年まで適用の予定でしたが、今回の延長により、更に2年間適用されることとなりました。
②外国籍者への手当
外国籍従業員に対する住宅手当など8種類の手当が、実費精算(現物支給も含む)により支給された場合に非課税にする事を選択できる優遇政策です。 2022年1月からは中国籍者と同様に特別付加控除(手当毎に決まった金額を控除し、残額を課税)への適用に一律移行される見込みでしたが、今回の延長により、引続き“実費精算の非課税”をあと2年間選択できることとなりました。
B. 中小企業の納税繰延措置を継続
2022年2月28日付で、製造業の中小企業における一部税金納付繰延を継続する事が発表されました(国家税務総局公告2022年第2号)。その主な内容としては、昨年2021年11月に発表した、中小製造業が2021年第4四半期分の納税(企業所得税、個人所得税(源泉徴収除く)、国内増値税、国内消費税等)を猶予する事ができる期間を当初の3カ月から6 カ月に延長すること、更に2022年第1四半期と第2 四半期(1月~6月)分の納税についても6 カ月間の猶予が可能であることとなっています。
対象となる製造企業は、中規模企業(年間売上高20百万元~4億元、納税額の50%を6か月猶予可能)及び小規模企業(年間売上高20百万元未満、納税額の100%を6か月猶予可能)です。
C. 大減税策(増値税の還付を推進)
3月5日より行われた全国人民代表会議(全人代)において国務院が計2.5兆元の大減税を発表しましたが、その主体となる増値税の還付に関するルールが3月21日付で発表されました(財政部 税務総局公告2022年第14号)。
(概要)製造業など特定6業種(製造業、科学技術サービス、ソフトウェア等)で、信用格付がA又はBである等の要件を満たす企業は、累積している仕入増値税額の未控除部分(売上税額から控除しきれなかった部分:通常は繰越のみ認められる)の還付を今年の7月~年末までの間に行う事ができます。また、4月以降に新たに発生した未控除仕入税額については、毎月全額還付されます。なお、小規模企業(年間売上高20百万元未満)の場合は、上記6業種に該当しなくても同様の還付が受けられます。
輸出取引に関しては以前から未控除仕入増値税は還付されていますが、今回は中国国内取引に関しても還付されるという事になります。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2022年5月号掲載記事より転載)