2022年2月:グローバル課税案の進展/各国で課税強化の動き(Part 2)
OECD主導のグローバル課税案と各国の課税強化の両方に関して最近も動きがありましたので、2021年11月号と同じ構成にて紹介させて頂きます。
1.OECDグローバル課税案の進展(Pillar 2)
OECDは2021年12月20日、Pillar 2に関するより詳しいルール(Global Anti-Base Erosion Model Rules、以下“モデル・ルール”)を発表しました。
これまでOECDが移転価格やその他国際課税問題に関して出してきた“ガイドライン”や“ガイダンス”ではなく、今回「ルール」と命名されました。とはいえ、現在合意している140ヵ国弱の本ルール適用は現状任意ですが、最低税率課税の世界標準化に向けたOECDの強い決意が感じられます。以下、今回詳細化された部分を中心に、以下ごく簡単に紹介します。
(適用除外):政府、国際機関、非営利団体、年金基金。また投資ファンドや不動産投資会社も、それらが最終親会社である場合は適用除外となります。
所得としては、国際海運所得は適用除外となります。
(課税方式):基本的には、法人実効税率が15%を下回る低税率国の関連会社における15%と実際の税率の差額分の税額(Top-up tax)を親会社に合算課税する所得合算ルール(Income Inclusion Rule、以下“IIR”)が適用されます。
但し、親会社の所在する国がPillar 2を適用しない場合、Pillar 2を適用する国にある企業から低税率国の関連会社等に対する支払の損金算入を否認する、Under Tax Payment Rule(以下“UTPR”)というルールが補完手段として適用されます。UTPRの単年度適用でTop-up taxを全て捻出できない場合、適用が翌年度に繰り越されます。
更にもう一つSubject to Tax Rule(以下“STTR”)という補完手段の適用も予定されており、これは低税率国の関連会社への一定の支払に際し支払国で源泉税の徴収を認めるというルールですが、詳細は未定で、モデル・ルールでは未だ言及されていません。
他に課税所得、実効税率の計算方法やTop-up taxの配分などを含み、計70ページに及ぶ複雑な内容の本モデル・ルールですが、更に今年(2022年)の早期にコメンタリー(解説)が追加される見込みです。今までOECDの出す国際課税のガイドライン等を極力遵守している日本は、おそらくこのPillar 2についても最終化次第適用するでしょう。そうなると、既存の外国子会社合算税制との折り合いをどうつけるのか、現時点ではわかりませんが、いずれにしても適用対象予定である連結売上高750百万ユーロ(約1,000億円)以上の多国籍企業にとっては多大なコンプライアンス負担増になることが懸念されます。ただ、OECDは各国に対しPillar 2を2023年から(UTPRは2024年から)適用するよう求めており、順調なら日本でも今年末に出る税制改正大綱にPillar 2法案が登場する可能性はありますが、これだけの複雑なルールを、現状で全容が未だ明らかではないにもかかわらず、来年度から本当に適用できるのでしょうか。個人的には、米国問題(“肝心”の米国が適用するか否か)などもあり、先行きは予断を許さないように思えます。
2.各国の税率引き上げ/課税強化の動き
- マレーシア
昨年10月末に発表された2022年予算案が承認され、今まで国外所得免除方式をとっていたマレーシアが、今年から国内に送金された国外所得に課税することになりました。具体的には、2022年6月末までに着金した分には総額の3%課税、7月以降は通常の法人税率(最大24%)での課税となります(配当所得については2026年まで非課税に)。二重課税を生じさせない合理的な国外所得免除方式をとっていたマレーシアが、突如全世界所得課税方式に変わってしまったということです。しかしそうするなら、二重課税排除の為外国税額控除制度の導入が必須ですが、今の所それもないようです。ラブアン島含めマレーシア法人が国外所得を有する場合、大幅な増税になる可能性があり、一度検討が必要でしょう。
- オランダ
オランダの2022年予算案(現時点では未承認の模様)では、2022年1月より、法人税率が現行の「245千ユーロまで15%、それ以上は25.0%」から、「395千ユーロまで15%、それ以上は25.8%」へと変わります。つまり軽減税率15%を適用される額が増える一方、最高税率が引き上げられます。
また、繰越欠損金の繰延べ期間が6年間から無期限に変更されるものの、毎年の欠損使用金額が制限され、1百万ユーロを超える利益については累積欠損金の50%までしか充当出来なくなります。総体的に、所得の大きな企業に不利な税制改正といえます。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2022年2月号掲載記事より転載)