2021年12月:中国の2020年度APAレポートの概要

中国の国家税務総局(“STA”)は2021年10月29日付で、2020年度(2020年1月~12月)の事前確認(Advance Pricing Arrangement、以下”APA”)に関するレポート(第12回)を発表しました。本月報でも米国や中国のAPAレポート等に関し定期的に紹介していますので繰返しになりますが、APAとは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間)との間で予め合意又は確認し、その後一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスク回避の最も確実な手段です。2020年度中国APAレポートの概要は以下の通りです:

(1)全般

2020年度のAPAの締結件数は29件(前年度比+8件)と、2年度連続で過去最高を更新しました。2020年度はコロナ禍で人の動きが制限され、STAも企業や相手国側税務当局との直接の打合せを行う事が殆ど出来なかった筈ですが、オンライン会議等を駆使して逆にコロナ前以上の実績を上げたようです。但し29件の内10件は過去に締結したAPAの更新事案(大幅に労力が少ない)であり、新規APAの締結件数19件は前年度と同じです。

いずれにせよ、日本や米国の二国間APA締結件数が毎年100件を超えていることに比べると未だかなり少ないといえますが、現在の中国の経済規模からするとAPAのニーズも日米と同等以上にある筈ですので、STAにおいてAPAの担当者を増やす等の取組み次第で件数は今後も伸びていくと思われます。

締結29件の内訳としては、一国向けのUnilateral APA(以下“ユニAPA”)が15件、二国間APAは14件と、二国間APAが殆どを占める日米に比べて相変わらずユニAPAの件数が多いのが特徴です。しかも、今年9月からはユニAPAに簡易手続きが適用できることになり(本月報2021年9月号参照)、STAとしても相手国税務当局との面倒な交渉無しに自分達のペースで企業の移転価格をコントロールし易いユニAPAを推進したいようです。よって中国では今後もユニAPAの件数が増えると思われますが、APA本来の目的である二重課税の排除は二国間APAによってのみ完全に実現できるものです。中国との二国間APA締結にはハードルが多く、簡単なユニAPAは一見魅力的ですが、本月報9月号記事でも述べた通り、中国でのユニAPA締結が日本における税務リスクを高めてしまう場合がありますので、注意が必要です。

2APAの業種別内訳

2020年度に締結された29件のAPAの内8割以上の24件が製造業の事案でした。累計ベース(2005~2020年度)でも、全締結件数206件の内製造業が165件と80%を占めています。

3)二国間APAの地域別内訳

2020年度に締結された14件の二国間APAの内、アジア諸国との事案が9件で最多となっています。累計ベース(2005~2020年度)でも、二国間APA事案90件の内対アジア諸国が59件(66%)と、対欧州の19件、対北米の11件を大きく引き離しています。

4)処理期間

ユニAPAは15件中13件(87%)が1年以内に締結された一方、二国間APAは14件中10件(71%)が締結までに3年超を要しました。STAはこれまで二国間APAについては、申請受付を厳選する代わり、申請を受理した事案については他国に比べ短い時間で締結していましたが、最近の統計から、そのスタンスが変わってきているように感じられます。

5)締結待ち事案とその内訳

2020年度末におけるSTAによる締結待ちの事案(申請意向を当局に提示した事案、及び申請済みの処理中事案)件数は計127件となり、前年度末の134件から7件減少しました。内訳としては、一国向けAPAは12件(前年度比-11件)、二国間APAは115件(前年比+4件)となり、圧倒的に多い二国間APAの締結待ち件数は更に増えました。このように二国間APAについては、相変わらず締結件数に比べ締結待ち件数の多さが目立ちます。但し、締結待ち件数の内申請意向の提示件数が69→35件と半減した一方、申請済件数が42→80件へと倍増しました。申請済の事案はSTAに申請を受理されたものであることから、次年度以降の二国間APA締結件数が更に増加することも予想されます。

6)締結事案の対象取引別内訳(20052020累計)

有形資産取引 58%、 無形資産取引 19%、役務提供取引 23%(無形資産及び役務提供取引の割合が徐々に増えています。)

7)締結事案の算定方法内訳(20052020累計)

取引単位営業利益法(対総費用営業利益率)50%、取引単位営業利益法(売上高営業利益率)30%、原価基準法9% (製造業の事案が多い事を反映し、製造業で多く用いられる対総費用営業利益率の使用が最も多い傾向が続いています。)

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年12月号掲載記事より転載)