2021年2月:OECDがコロナ禍における移転価格対策ガイダンスを発表

経済協力開発機構(OECD)は2020年12月18日、Guidance on the transfer pricing implications of the COVID-19 pandemic(COVID-19感染拡大の移転価格への影響に関するガイダンス)を発表しました。

昨年はコロナ禍がもたらした経済破壊により、世界中の多くの業種、企業が多大な損失を被りました。通常、企業が赤字であったり相手国の関連会社に比べて利益率が低かったりすると、移転価格に問題がある(売却価格が安すぎる、受取ロイヤルティが過少である等)と税務当局に認定されるリスクが高まります。よって企業は、今後の税務調査に備え、赤字は移転価格の設定と関係がないコロナ禍による不可抗力の損失である旨説明できるよう準備しておかねばなりません。一方税務当局も、企業の赤字がコロナ禍によるものか否かを慎重に見極める必要があります。

本ガイダンスは、企業及び税務当局に対する、コロナ禍における移転価格対策ガイダンスとなっており、計4章(1.比較分析、2.損失及びコロナ関連費用の配分、3.政府の援助、4.APA)からなっています。内容的には、コロナ禍のような極めて異常な状況における移転価格の原則が主にまとめられているものですが、各国の企業及び税務当局が足並みを揃えて移転価格対策に取り組めるような共通のガイドラインを提供したという意義はあると考えます。以下、誌面の関係で主なポイントのみ紹介します。

1.比較分析

  • 企業がコロナ禍による影響をどれだけ受けたかを示す客観的情報として、売上高や四半期損益の対前年度比較、工場の稼働率、GDP成長率等のマクロ経済データなどがある。また企業内部の損益予想と実際の損益結果の比較分析も可能である。
  • 本来は分析対象年度と同年度の比較対象データを適用すべきであるが、例えば2020年度の比較対象データが移転価格用のデータベースで反映されるのは早くても2021年半ば過ぎになってしまい、移転価格文書の作成期限に間に合わない場合もあり得る。よって、例えば財務データは2019年度を使用せざるをえなくても上述したような最新の情報を用いて分析の補足・調整等を行うなど最善の努力を行うことが必要になる。
  • Price-setting approach(取引開始時点の情報に基づいて価格を設定)を適用する国は、状況に応じてOutcome-testing approach(実際の損益結果を直近のデータに基づいて事後的に分析)やそれに伴う事後的な価格調整メカニズムの採用を(一時的にでも)認めることを検討すべき。
  • リーマンショック時のデータは使用出来ない(状況が違い過ぎる)。
  • 2020年度については、赤字企業も比較対象として認めてよい(コロナの影響で赤字なら)。

2.損失及びコロナ関連費用の配分

  • 信用リスクや市場リスク等を負っていない、リスク限定型の関連会社は、そのようなリスクの負担に変更が無い限り、コロナ禍を理由とした赤字計上は難しい(関連者間の赤字の配分はリスク負担に基く)。
  • コロナ禍をうけて関連会社間取引の契約条件を改定するのは、類似の第三者間でも同様に改定している証拠がないと、合法と認められないと思われる。
  • コロナ禍対策のためのマスク、シールド購入などの特殊な費用を関連者間で分担する際は、類似の第三者間での分担や、関連者間でのリスク分担等の状況を検討した上で決める必要がある。また、移転価格分析を行う際、それら特殊費用は検証対象及び比較対象データから除外されるべきである。
  • 関連者間取引契約における不可抗力(Force majeure)条項が発動できるか否かについては慎重な検討を要する。

3.政府の援助

  • 各国の政府が提供した様々なコロナ対策支援が移転価格に及ぼす影響(取引価格改定等)については、それが企業に及ぼしたメリットの度合(金額等)、そのメリットを非関連取引先とどのように配分したか等を検討する必要がある。但し政府援助による関連者間リスク分担の変更は正当化されない。

4.APAAdvance pricing arrangement

  • APAの適用を取消したり条件を変更したりする為には、コロナ禍による損失が各APAで規定されている重要な前提条件(Critical assumptions)に該当する事が必要であり、納税者と税務当局が事案ごとに協議・検討しなければならない。
  • もし重要な前提条件に該当する場合、納税者は迅速に税務当局に連絡すると共に、証拠となる資料・文書の準備・提供を行う必要がある。
  • 現在APAの合意に向けて準備中の場合、二重課税回避というAPAの意義を尊重し、2020年を別扱いするなど柔軟に対応しながら極力準備を継続したほうがよい。当局との打合せもビデオ会議などで行う事が可能である。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年2月号掲載記事より転載)