2020年11月:遅れているOECDのデジタル課税ガイダンス作成
GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)をはじめとする大手IT企業が大掛かりな節税を行い、米国以外では殆ど税金を払っていない事に端を発したデジタル課税問題に対し、経済協力開発機構(“OECD”)は、各国独自の課税による国同士の対立や経済の混乱を防ぐ為の国際統一デジタルサービス税(“DST”)のガイドライン作成を進めています。2019年10月に、各国の主張の折衷案的な「統一アプローチ」提案を発表しましたが、これに関して先日(2020年10月12日)、進捗状況レポート(Blueprint、Pillar One)が発表されました。234ページに及ぶ本Blueprintは、1年前に出た統一アプローチ提案の概念をそのまま踏襲し、各論を掘り下げたもので、この統一アプローチに基づいてガイダンスが作成されることが固まってきたようです。つまり、当初のターゲットであるGAFA等のみならず、消費者向け事業を行っている伝統的企業も幅広く対象になるという、米国の意図を反映したものになりそうです。今回は、本Blueprintの一部ですが、いくつかの進展があった部分について以下説明します。
※(なお、統一アプローチ全体の概要については、本月報2019年11月号を参照ください。また、同じく10月12日付で発表されたBlueprintのPillar Twoは、本月報今年2月号で紹介したGloBE案(世界統一最低税率課税案)に関するものであり、今回は割愛します。)
(課税対象事業)
課税対象はAutomated Digital Services (自動化されたシステムによるデジタルサービス、以下“ADS”)、及びConsumer-Facing Business(消費者向け事業、以下“CFB”)の2事業に絞られました。まずADSですが、GAFA等殆どの大手IT企業が含まれると思われます。
一方CFBについては、ADS以外で消費者向けの事業を行う企業が該当するとのこと、本Blueprintでは具体的に製薬事業、フランチャイズ事業、ライセンス事業、Dual-use(個人・企業の両方で利用される商品)事業などが対象事業として議論されています。例えば製薬事業では、店頭で消費者に販売される薬品に係る事業に加え、処方箋により提供される医薬品に関する事業も(最終的には消費者に使用されるという観点から)CFBとして含める選択肢が議論されています。またフランチャイズ事業においては、自動車業界を例にとり、最終的に消費者に販売するディーラー(販売会社)のみならず、ディーラーに販売する自動車メーカーもCFBの対象であるとしています。更にDual-use事業についても、自動車やパーソナルコンピューターを例にあげ、企業向け販売もあるが個人にも販売されている為、CFBに該当するとしています。こうみると自動車業界が主要なターゲットとなっているようにもみえますが、のみならず消費者向け商品を扱う幅広い業種・企業がCFBに含まれる可能性が高いと思われます。そうなると、拠点の無い国でも多くの利益をあげ、かつその利益をタックスヘイブンに移転することが容易なADSではない伝統的なCFB企業もDST課税の対象となってしまうという事で、当初の目論見とは大幅に異なるガイダンスになってしまいそうです。まさに、DSTの攪乱を目指す米国の狙い通りに事が進んでいる状況です。なおCFBの対象外としては、租税回避が難しいという観点等から、天然資源、金融、居住用不動産(建設、販売等)、国際航空・海運の各事業があがっています。
(課税対象企業の基準)
グローバル連結売上高が一定以上(おそらく750百万ユーロ⦅約900億円⦆以上)で、且つ国外での売上高が一定額以上の企業が課税対象となります。それら企業が、拠点がなくてもある市場国で一定以上の売上をあげていれば、その市場国で課税できるとします。但し、この「一定以上の売上」額が単一の基準なのか、各国の経済規模に応じた異なる額が設けられるのか、更に租税回避度合がADSより低いと思われるCFBに課税する際には売上以外に何らかの実体がその国にあることを求める基準を追加するのか等、現時点では多くが未定です。
(米国が提唱する“セーフ・ハーバー”について)
昨年12月、この統一アプローチガイダンスが適用されるか否かは各企業の判断に委ねるべきであるという「セーフ・ハーバー」と名付けた提案を米国が突然出してきました。これについては殆どの国が、DSTの実効性が薄れるとして反対していますが、本Blueprintでは、セーフ・ハーバーについて引続き検討すると述べるにとどめています。それにしても、DSTの対象にデジタル企業ではないCFBを含ませるのみならず、セーフ・ハーバーまで導入してデジタル課税を実質骨抜きにしようという米国の執念には驚きますが、このような米国の動きをみると、蛇足ながら、GAFAをはじめとする大手IT企業は実質的に米国の国策企業なのかという疑念さえ生じます。
(スケジュールの遅れ)
当初は今年中に統一アプローチの最終レポート発行の予定でしたが、OECDは本Blueprintにおいて、COVID-19感染拡大、及び政治的対立もあってスケジュールが遅れており、各国間の合意は2021年半ばにずれ込むとしています。もっとも、既に本月報昨年11月号で紹介した通り、そもそもこの統一アプローチの仕組みは非常に複雑である事も考えると、来年半ばまでの合意も難しいかと思われます。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2020年11月号掲載記事より転載)