2020年10月:OECDガイダンスが関連者間ローン取引に与える影響
経済協力開発機構(OECD)が2018年7月に発表した、金融取引に関する移転価格ガイダンスの公開草案の内容については以前本月報で紹介しました(2018年8・9月号)が、草案は特に大きな内容の変更なく今年(2020年)2月にガイダンスとして最終化されました。これにより、移転価格において最も遅れていた金融取引についても世界標準的なガイダンスが整備されましたが、後述の通り、非金融企業でも多く行われている関連者間ローン取引については、本ガイダンスと現状の日本の移転価格税制との間に差異があり、注意が必要です。
ローン利率算定に関する本ガイダンスの概要
(信用格付の利用)
第三者間でローン利率を決める際の最も重要な要素は借手の信用度であることから、比較対象取引を選定する際、借手の信用格付が関連者間ローン取引と同じであることが必要である。信用格付には、企業グループ全体、企業単体、または個別の債務毎の格付がある。グループの一員であることによる間接的なメリットがあること、また企業単体の格付は関連者間取引価格の影響を受け易いことから、グループ全体の格付を利用することが適切な場合が多いと思われる。信用格付を取得していない企業グループは、取得を検討する余地がある。
(独立企業間ローン利率の算定方法)
- 独立価格比準法(CUP法):ローン取引は市場データが多い為、関連者間取引の借手と同じ信用格付を有し、その他類似性が高い第三者間ローン取引の利率を適用することができる。または、関連者間ローン取引の借手あるいは同じ企業グループの別の企業が類似の条件で第三者(銀行等)から借りている場合、取引条件等の差異を調整出来ればそれらの利率も適用可能な場合がある。
- コストプラス法:CUP法が適用できない場合、且つ関連者間ローン取引において貸手が借手に貸す資金を外部調達している場合、その資金調達コストに上乗せするマージン(ローン組成費用や利益等を含む)を第三者間取引と比較する方法の適用も可能である。しかし、企業が市場金利よりも大幅に安く調達できるような状況もあり、その場合コストプラス法の使用は適切ではない。
- その他の方法:類似条件のクレジット・デフォルト・スワップレートの適用、経済モデルによるローン利率算定(各種要因を考慮したプレミアムを算出しリスクフリー率に上乗せする)などは可能である。
但し銀行の意見書(当該借手には××%で貸せる等銀行の見解を記した書面)は、実際の取引ではない為、一般的には使用できない。
本ガイダンスの(特に日本における)問題点
現在の日本の移転価格税制では、日本法人及び国外関連者が共に金融業を行っていない場合の関連者間ローン利率算定においては、以下(1)~(3)の優先順位でCUP法に準ずる方法と同等の方法の適用を検討するとしています:
(1)国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
(2)国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
(3)国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率
以上の通り日本の税制は、“付されるであろう”、つまり実際に発生していない銀行意見書などのみなし取引でも認められる可能性があり、それも無ければ(3)のように国債の利回りでもよいのですから、比較的簡易で適用しやすいものです。しかし本ガイダンスは、銀行意見書や、リスクフリー率である国債利回り自体の使用は認められず、しかも信用格付を重視し過ぎているように思えます。まるで信用格付会社に忖度し、彼らの仕事を増やそうとしているのではないかと疑う位です。しかし上場大企業ならともかく、日本の海外進出企業の多くは中小企業で信用格付などありません。というか、無借金の企業が多く、それら企業は信用格付など必要ないでしょう。そのような日本においては、信用格付がないとローン利率算定が難しいような書きぶりの本ガイダンスは実態にそぐわないものと懸念します。日本の国税庁も、本ガイダンスをそのまま国内税制に取り入れるのは難しいと考えているかもしれません。しかし、日本は今まで移転価格税制を殆どOECDガイドラインに準拠させてきましたので、本ガイダンスの最終化を受けて今後何らかの税制改正が行われる可能性は十分にあります。よって海外の子会社に貸付を行っている企業は、今後の日本の税制改正に注意し、現状の利率算定方法で問題がないか逐次チェックする必要があります。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2020年10月号掲載記事より転載)