2020年7月:ASEANにも拡がるデジタル課税

コロナ禍により世界経済がすさまじい打撃を受けている中で、ほぼ一人勝ちともいえる恩恵を享受しているのがオンライン業界です。GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)以外でも、映画等を配信するNetflixやオンライン会議システム提供のZoomなど多くが売上を伸ばしています。そのような中、それらオンライン企業が儲けているのに課税できない各国が、コロナ禍での税収減を補う目的もあってかデジタル課税への動きを早め始めました。アジアでは、最近以下のASEAN主要3か国でデジタル課税導入に向けての動きが相次いで報道されました。

1.インドネシア

インドネシアの税務当局は5月15日、海外の事業者から電子商取引などを通じて提供されるデジタル(無形の)商品・サービスに7月1日から付加価値税(VAT)10%を課税すると発表しました。

海外から提供されるデジタル商品利用に対するVAT課税は、国内企業と外国企業の間の、および従来の事業とデジタル事業との間で公平な課税環境を構築するための政府の取り組みの一部であると当局は説明しています。この規定の制定により、音楽や映画のオンライン配信、ゲームなどのオンライン商品、その他海外からのオンラインサービスはVAT課税の対象となります。当局は今後、12カ月内の取引額や通信量の実績が一定水準の条件を満たした事業者を課税対象業者として指定、公表します。

VATのみならず、海外デジタル事業者がインドネシアで子会社や支店などの法人を有していなくても、それら海外事業者がインドネシア消費者に対するサービスでもうけた収入に対し法人税(おそらくデジタルサービス税⦅DST⦆のようなもの)を課す検討も並行して進んでいます。

2.フィリピン

フィリピンの下院歳入委員会は5月19日、GAFAなど海外大手デジタル企業がフィリピン国内であげた事業収入への課税を可能とするために税法の一部を改正する法案を同日付で提出したと発表しました。同法案は、デジタル事業収入に対して12%のVATを課し、法案が成立次第有効となると規定しています。同委員会は、本法案成立により年間291億ペソ(約600億円)の歳入増が見込めるとしています。

同委員会は、NetflixやSpotifyなどのストリーミング配信サービスや、GoogleやFacebookの広告収入は、フィリピン国内に拠点がないという理由で課税されておらず、国内で同じ種類の事業を提供する企業に比べて不公平であると述べています。

また税務当局(BIR)は6月10日、デジタル事業をはじめフィリピン国内で事業を行い且つ収入を得る全ての者(個人及び法人)に対し、7月31日までに事業者登録の届出を義務付けました。登録料は500ペソと軽微ですが、登録を怠った場合には罰金が徴収されます。

3.タイ

タイ政府は6月9日、海外の事業者がタイ国内から得るデジタルサービス収入に対しVATを徴収する法案を承認しました。本法案は今後国会で審議されます。具体的には、タイ国内で年間180万バーツ(6百万円強)以上のデジタルサービス収入がある海外事業者は、その収入に対し7%のVATを支払う事を義務付けます。これにより、タイ政府は毎年約30億バーツ(約100億円)の追加財源を確保できるとしています。

所見:デジタル課税協調体制に破綻の兆し

折しも6月18日付日経新聞で「トランプ米政権は17日、英国やフランスなど欧州勢に対し、各国が導入するDSTをめぐる国際交渉を打ち切ると伝達したと明らかにした。欧州各国にデジタル税の課税撤回を強硬に求めたもので、報復関税を発動する可能性もある。」との記事が出ました。そうなると、OECDで進めていたDSTの統一アプローチ(本月報2019年11月号参照)も、米国の意向が濃く反映された案だったにもかかわらず宙に浮いてしまい、各国が益々独自にデジタル課税を始めることが予想されます。

あくまでも自国の“金と情報の成る木”であるデジタルサービス企業を守りたい米国(中国もそうかもしれません)と、その他の国との課税戦争の過熱が懸念されます。しかし、米国のGAFA等がここまで成長したのは、海外での実質無税状態によりキャッシュを蓄積できたことも大きい事から、公平を期す為各国で彼等に課税する事は必要と思います。但しVATは、その性質上実質的には最終ユーザーに転嫁されることになり、本来はやはりDSTのように、デジタルサービスの売上に直接課税できる法人税形式の方が各国にとっては望ましいはずです。インドネシアの他フィリピンでも検討しているようですが、たとえDSTを採用しても、(自国に拠点の無い)GAFA等から実際にどうやって税金を徴収するかの仕組み作りが必要であり、課税への道のりは簡単ではないようです。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2020年7月号掲載記事より転載)